もう、あなたから返事はこない。
だってあなたはもう、他の誰かを好きになってしまったから。
だってあなたはもう、私のこと、「わか」とは呼んではくれないから。
さよならなんだね。私の初恋のあなた。
◎ ◎
既読だけついたメッセージを何度も見てしまう。
わかっている。返事をくれないことはわかっている。
わかっているはずなのに、もしかしたら明日になったら返事が来ているかもしれない。そんな淡い期待を胸に、今日もあなたからの返事を待ってしまう。
私がまだ10代だった時、初恋の相手と初めてのデートをした。
デートの経験はもっと幼い頃からあったが、本当の恋をした人とのデートは、この時が初めてだった。
このデートは、なんと初対面デートでもあった。
ネットで知り合った初恋の彼は、電話で告白され、電話で告白を受け入れた。この時が初めてのデートであり、顔合わせだったのだ。
だから忘れられない。
当時の私は、まだ料理もそれほど上手ではなかったが、朝早起きして弁当を作って彼とのデートを心待ちにしていた。
いつもよりうんとおしゃれをして、お気に入りのシュシュをつけて、何度も鏡を見て、持ち物だって入念に確認した。お金も持ったし、弁当も持ったし、ハンカチもティッシュもお手拭きも完璧。
できる女ではなかったけど、精一杯できそうな女の子でありたいと思っていた。
◎ ◎
だけど、そんな私をよそに、彼は初回のデートから遅刻。
少しムッとした顔で待っていると、ごめんごめんと屈託ない笑顔で私を見つめる。そして、なんのためらいもなく「わかちゃん、思っていた以上にかわいいな」なんて言うから、遅刻したことをちっとも怒ることができなかった。
初めて見る初恋の彼は、全く好みの見た目ではなかった。高身長でなければ、かっこいいわけでもない。日差しが強いわけでもないのに帽子をかぶっていて、暗そうな印象だった。でも、なんだか仕草がかわいい。私の手を握ろうか握らないかおずおずと迷っていて、いっそ腕を組もうかと、隣にピッタリくっついて歩く姿は、従順な犬のようで、私よりずっと年上なのに、愛らしく感じた。
初デートは、私が行きたいと言った水族館で、お昼は私の作った弁当を一緒に食べた。座ると服が汚れるからと、彼は赤のスカーフをベンチに敷いてくれた。心配りのできる人なんだなと、少し嬉しくなった。
海が近かったので、海を見に行こうと外に出ると、風が強く、「禿げる禿げる、髪がなくなる!」と必死に帽子を押さえていたのを今でもよく覚えている。風なんかでは、禿げないでしょうと言うと、「禿げるというか、禿げかけているところが…」と恥ずかしそうに言っていた。帽子をかぶっていたのはそのためだったのかと謎が解けたのだった。
◎ ◎
特別なことがあったわけではないけれど、彼と過ごした初めての時間が今でも忘れられない。
あの時の赤のスカーフは、初デートの時にあげると言われ、未だに捨てることができずにいる。あの時のように身につけるのではなく、座るために私の椅子に敷いてある。初恋の彼が、初めてくれた赤のスカーフは、初デートの思い出とともに消えずに残っている。
あれから11年。私は結婚し、初恋の彼には新しい彼女ができた。
私が夫と暮らす前で、初恋の彼に新しい彼女ができる前は、細々メッセージや通話のやりとりをしていたが、新しいパートナーができたら、初恋の彼からの連絡は途絶えた。
もう、お互いなんでもない関係になった。
新しいパートナーができたのだから、当たり前のことかもしれないが、初恋の彼と連絡を細々と取り合うことが当たり前になってしまっていた私にとっては、当たり前ではなかった。心にぽっかり穴が空いてしまった。
会いたいと思っているわけではない。でも、あの時の忘れられないデートの話を、またできる日が訪れたらいいなと、思わずにはいられないのだった。