私はこの夏、アロマテラピーアドバイザーの資格を取得する計画を立てている。

アロマテラピーアドバイザーとは、アロマテラピー検定1級合格者が公益社団法人 日本アロマ環境協会(AEAJ)に入会した上で、アロマテラピーアドバイザー認定講習会を受講することで取得出来る。精油の正しい使い方やアロマテラピーに関する法律の知識を習得することで、アロマテラピーの安全な楽しみ方を正しく社会へ伝えることのできる能力を認定する資格である。(AEAJホームページより)
アロマテラピーアドバイザーの資格を取得することで、この資格保有が必須であるアロマセラピストやアロマブレンドデザイナーなど、さらに上級の資格取得を目指すことも出来、これらの資格を取得すれば自分で開業することができたり、実際にアロマテラピーのアドバイスやアロマクラフトの講座を開催できたりする。

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昨年11月にアロマテラピー検定1級に合格した私は、精油を取り扱うサロンで働いているわけでも、オーガニックコスメを取り扱うショップに勤務しているわけでもない。むしろ、全く畑違いで精油とは関わりなんてほとんどない金融業界でずっと仕事を続けてきた。
元々ローズやオレンジなどの香りが好きで、アロマクラフトなどの講座を受講するくらいアロマが好きで興味を持っていた。昨年生きる気力を失いかけていた時に香りの力にたくさん助けられ、もっと「好き」を深めたいと思った私は、独学でアロマテラピー検定の勉強を始めた。
アロマテラピーが心身に作用するメカニズムやそれに関する法律を学ぶ中で、「いつか、アロマテラピーのサロンを開けたらいいな」という夢がぼんやり浮かんでいた。
しかし、今の私は金融業界で働く普通の会社員だ。昨年11月に合格してからすぐにアロマテラピーアドバイザーの資格を取得すればよかったのだけど、「アロマ関係で仕事をしているわけじゃないから、取得しても役に立たないかな…」と躊躇してしまって、取得を先延ばしにして今に至る。この夏申し込もうと決めたのにはある人に背中を押されたからだ。

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先日、短大時代から仲のいいMちゃんと食事に行った。
私と彼女は同じ業界で働いているため共通点も多く、仕事などの真剣な話から恋愛相談、美味しい定食屋さんの話まで何でも話せる。彼女はいつも美味しそうにご飯を食べるし、笑顔の印象が強いから一緒に居るだけで周囲を明るくする大切な友人だ。定食屋さんでランチを食べながら彼女の幸せな報告を聞いたり、こちらの近況報告を行ったりで話題は仕事へと切り替わった。

今年30歳になる。昇進して役職をいただいたり、社内でも後輩の数がどんどん増えたり、このままキャリアを積み上げていっていいのか不安に時々襲われる。

彼女と様々な悩みを共有する中で、Mちゃんが今の職場ではできない別の夢があることを私に話してくれた。何でも話せるMちゃんが真面目な話をしてくれたことが嬉しくて。そして、今の私も似たような悩みを持っていたから、私もいつかアロマテラピーのサロンを開いてみたいと思っている、という夢を話した。誰かにこの話を直接自分の口からしたのは初めてだったから、私も話すことができてよかった。

私はMちゃんが毎日の仕事をこなしながら夢を大切に抱いていることがとても素敵だと思ったし、かっこいいと思ったし、全力で応援したいと思った。
だけど「あと5年若かったらなぁって思っちゃうんだよね。5年の差って全然違うし、結婚とか子供のこととかどうしても色々考えちゃうと踏み出せないんだぁ」と話すMちゃんは少し切なく見えた。

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でも私だってそうだった。
自分の抱いている夢を話した時に、Mちゃんが「えー!めっちゃいいじゃん!もぴ、こないだ資格も取ったし、きっとやれると思うよ」と肯定してくれたのに「でも今のキャリアを手放すのも怖いし、安定した会社を辞めて上手くいくか分からないし、不安なんだよなぁ」と口にしてしまう自分がいた。

お互いに相手の夢は全力で応援するのに、自分のことになるとつい後ずさりして後回し。
いつまでたっても足踏みをしたままで前に進むのを躊躇してしまう。
「お互い自分のことになると全然だめだね」と2人で顔を見合わせて苦笑いした。
夢を叶えたい。でも生活をするためにはお金が必要だ。今の立ち位置を捨てることや、もしもの失敗した時のことを考えると、幾ばくかの不安が拭えない。

Mちゃんと別れた後、自宅に帰るとシトラスオレンジの香りにふわりと包まれる。
この香りに包まれると「自分の家に帰って来たなぁ」と、どこかホッとする。
検定試験の勉強で使った書籍や少しずつ買い足してきた精油たちを大切に手に取り、それを眺めてしばらく考える。本当に昨年の私は、香りの力に助けられた。香りのおかげで苦しい気持ちを少しずつ手放すことが出来たのだ。
…やっぱり、とりあえず、やってみよう。そうじゃないときっと後悔する気がする。
仕事を辞めるとか、アロマの仕事一本でやっていくとか、上手くいかなかったらどうしようとか。足踏みする理由はいくつもあるけど、一旦それらは隅に置いておこう。
このまま足踏みしていたら、きっと5年後の35歳になった私も「あと5歳若かったら、資格取ってたんだけどなぁ」と後悔しているに違いない。私はMちゃんの言葉に背中を押された。

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早速AEAJのホームページで、アロマテラピーアドバイザーの資格についてのページを開いた。調べると、夏頃にはこの資格を取得できるみたいだ。
また、認定講習会に向けてアロマテラピーについて勉強しなおして知識を深めておこうと思った。将来や仕事のことは、また資格を取得してからゆっくり考えようじゃないか。

いつだって「今」この瞬間が一番若い。
30歳になる今年は、今まで年齢や不安を言い訳に前進することを躊躇していた自分から脱却できるように頑張りたい。きっとそんな私がMちゃんの背中を押せたなら、説得力も増すだろうし、どんな選択をするにせよMちゃんの夢は全力で応援したい。今度会った時に、彼女の夢に役立ちそうな情報や私の決断を話せたらいいなと思う。その日を楽しみに毎日の仕事と夢を叶えるための勉強を頑張りたい。