私はもともと一目惚れってのを滅多にしない。
目から入るものの情報処理よりも頭でじーっくり考えるタイプ。何度も目惚れタイプ。

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だが、これは「目」だけの話で、味や香りでは時たま『一⚪︎惚れ』をする。
今回は香水好き(でもある)の私がとある香水に出会った時の話。『一嗅ぎ惚れ』とでも書いておこう。字面はあんまり良くないが。

それは20歳の冬。当時私は香水にハマり出した時期。「良い香りがする女の子っていいよなぁ」っていう考えでInstagramで「モテ香水」「人類モテ」みたいに書かれているやつばかりを試しては良いなと思う香水を購入していた。
その日は憧れの先輩がいい香りをさせていてその人の香水をなんとか聞きつけ、「おんなじ香りさせたい!」と思って香水ショップへ。
今まで私は化粧ブランドの香水しか購入したことなく、デパートとかに入っている香水だけを取り扱ういわゆる香水ショップに行くのは人生初。色々なブランドの香水が並んでいて名前は知ってるけど普段インスタでは紹介されないような香水ばかりが並んでいた。

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担当してくれたお姉さんにお目当ての香水を伝える。「実は憧れてる人がこの香りさせていてすごくそれがいい香りで…」なんて話しながら腕につけてもらった香りを嗅ぐ。
うん、知ってる通りいい香り。そっかこんな香りだったか。ふわっとしてるな。へーそうかー。
先輩だとすごくいい香りなのに、正直私だとなーんかパッとしない。人によって香り方が変わる、これこそ香水の楽しいところだって今なら分かるだけど当時の私は「まぁこういうものでしょ。これはいい香りなんだし。」という気持ちで購入する気でいた。

その時、なんとなく腑に落ちていない雰囲気を感じ取ったのか?担当のお姉さんから
「爽やかな香りをお探しでしたら、こちらの香水も試してみませんか。」ととある香水を差し出された。
可愛い瓶に入った緑色の香水。ブランドは誰もが知る香水の有名ブランド。20歳の私はこのブランドの香水を自分が買うなんて頭にかすりもしていなかった。だってお父さんの香水と同じブランドなんだもん。
ただ腕に吹きかけてもらったその瞬間、
ふわーっと甘い香りが華やいだ。お花とも果物とも言えない得体の知れない何か甘いもの香りが私の鼻を通る。甘いのにけっしてくどくなく、爽やかなのに奥行きのある香り。きちんと個性のある香りなのにずっと吸い込んでいたくなる香り。
「……!!すごいいい香りです!とても爽やかです。これから夏とかになってたくさん使えそう。」
すっかり興奮した私はお姉さんに精一杯の感想を伝える。
お姉さんはニコニコしながらこう言った。
「そうなんです。この香りとても良いですよね。女性らしいけどくどくなくておっしゃる通り夏にもぴったりです。それに…」

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ここから、お姉さんが放った魔法の言葉によって私はさらにこの香水の虜となる。心なしかお姉さんの目がキラーんと光った感じがした。

「それに、この香水冬にも良いんですよ。冷たい空気の中にすーんってこの香りが香るんです。温かくないこの香りが冬の中で個性を持って香るんです。この香水の良さが際立つと思いますよ。」

かーーーん。と私は頭を打つような衝撃を受けた。お姉さんが話した情景がありありと思い浮かんだのだ。寒い冬の空気の中を一本の糸のように軽やかにそして確かな強さを持って香り、冷たい空気をさらに冷たくしそうな勢いで、冬をさらに静かにさせる情景が。爽やかな夏の香りと思っていたものが、芯を持った冬の香りにもなった瞬間だった。

もうここまで来たら先輩の香水なんて頭からほぼ居なくなってる。腕につけてもらい、紙にもつけてもらいその日は一旦帰宅。言うまでもなく家族にはこの興奮を伝え、腕と紙をずーっと嗅ぎ続けた。紙はもうラストの香りになっていたがそれでもそこから一週間くらい大事にコートのポケットにしまい時々嗅いでは「あぁ、なんていい香り。」と繰り返していた。

もちろん、しばらくして無事この香水は私の手元に。

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それからというもの、私の一軍香水はずっとこれ。大人になっていろんな良い香りに出会ってきてはいるが、私にとっての特別な日には必ずこれをつける。夏にももちろん使うが、特別な冬の日にはこの香りが私を主役にしてくれている。
あの日あの香水ショップに行かなければ、あのお姉さんが担当してくれなければ私はこの香水にもしかしたらまだ出会っていなかったかもしれない。

以上が私がとある香水に「一嗅ぎ惚れ」、お姉さんの言葉に「一聞き惚れ」したお話だ。
今日もこの香水をつけてこれから出かけようと思う。