5月、仕事を辞めた。4〜6月は繁忙期だというのに。まだ1年と10ヶ月しか働いていない職場なのに。あの仕事が、大好きだったのに。

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大学を辞めて頼れる場所がなかったから、自力で探して、自力で企業研究をして、自力で面接準備をして、自力で掴み取った内定。大学で勉強した分野とは全く異なる分野、ブライダル専門のエステサロンで1年と10ヶ月働いた。

中学、高校で所属した吹奏楽部がブラックだったからブラックな環境にすっかり慣れてしまっていて、入社した会社がブラックだなんて気づかなかった。というか、気づかせてもらえなかった。

毎月2回行われる、店長とのミーティング。「つっきーはここしか知らないから分からないかもしれないけど、ここはすっごくホワイトだよ」と、何度も言われた。まず、新人にそれを伝える時点で疑うべきだった。でも学歴にコンプレックスを抱くわたしは、「こんなわたしに月20万も出してくれる会社」なんてここしかないと思ったから、「はい、分かっています」と答えていた。

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周囲に、「それブラックだよ。それパワハラだよ。もう辞めなよ。他にも仕事いっぱいあるよ」と言われても、「でもあの履歴書じゃここくらいしか月20万もらえないだろうし。会社はクソだけど、仕事は楽しいし。」と答えていた。

妊娠した社員が怒鳴られている現場を見ても、残業10時間を「打刻ミスにしてくれる?」書き直させられても、生理中お手洗いに行けず太ももに血を流しながら仕事をしても、「とりあえず3年」と自分に言い聞かせた。退職という選択肢は無かった。この履歴書で、転職できるとは思えなくて。

4月、マネージャーとのミーティングがあった。自己理解、自己啓発について話し、「自己理解のために、自分が他の人に対して意識的に隠していること、例えばコンプレックスとか。そういうのを書き出してみて」と指示を受けた。そこでわたしは、例えば「泳げない」とか「友達が少ない」とか「大学中退がコンプレックス」とか、とにかく自分が人に隠したいことを書いた。

それを提出するとマネージャーは、周りにお客様がいるにも関わらず声に出して読み上げ、ひとつひとつを笑った。「つっきー友達少ないの!?意外だね〜多そうなのに」「大学中退コンプレックスなんだ?」と。

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決意が固まった。辞めよう。

ミーティングをした日の夜から、盛大に体調を崩した。もともとお腹が弱いからそのせいだと思ったけど、その後も続く体調不良に違和感を覚えた。仕事の日に限って食事が摂れなくなり、ゼリーとサプリメントで済ませた。仕事中低血糖になったときは、ラムネを制服のポケットに忍ばせた。

職場はエステサロン。体力仕事。こんな食事で仕事をこなせるわけもなく、繁忙期のGW真っ只中で休職した。マネージャーにはお電話で「お仕事は大好きです。でも、自己理解のためとはいえ、部下のコンプレックスを笑うような環境に身を置くことはできません」と伝え、そのまま退職した。

退職してからは、会いたい人に会いに行ったり、料理をしたり、所属する吹奏楽団の練習に毎週参加できたりと、今までにない充実した日々を過ごした。

それ以外には、20歳の頃にそろそろ抜かないとダメと言われた親知らずを、やっと抜いた。前職では、歯医者に通う時間などなかった。

転職活動は難航している。後先考えずに仕事を辞めたことを後悔して、涙が止まらない夜もある。それでも、あの職場から逃げたことは間違いじゃない。数年放置した親知らずを抜けただけでも、この退職は成功である。