夜中にテレビを観るのが好きだ。観たいものを録りためて観るのはもちろん好きだ。ただ、それ以上に、あてもなくパッと点けて、流れてきたものを観ている時間が、たまらなく好きだ。
何だか、時代の風を浴びている感じがする。そして、その風が、時に思いもよらない出会いを運んでくれることがある。だから、やめられない。
あの日―私が、Mrs.GREEN APPLE(以下「ミセス」という)にやられた日も、そうだった。
「あぁ、疲れた……」
いつものように仕事から帰り、ごはんを食べて、お風呂にも入った。そして、ソファに沈み込んで、ふとテレビを点けた。
「さぁ、この後、合唱企画です!」
アナウンサーの声が耳に飛び込んでくる。どうやら、音楽番組らしい。面白そう。しばらく観ていると、制服を着た高校生がみっちり並んだステージが映った。そして、その真ん中に、やけに髪色の明るいお兄さんたちが3人。赤、青、黄色で、目を引くキャッチーな出で立ち。
「おぉ、よくいるビジュアル系か。どれどれ、眠いけど、観るか」
そう思って聴き始めた、次の瞬間。さわやかで力強い歌声に、驚いた。
◎ ◎
何だこれは。予想を軽く裏切られたぞ。
よく聴いていくと、歌っている内容は、もっとすごかった。正確に言うならば、派手な見た目の、何十倍も繊細で、優しかった。誰もが生きていく中で感じているのに、押し殺してしまいがちなことを見つめている。
例えば、皆さんは、何かに不安を感じたとしても、ポジティブでないといけない気がして、他者に伝えるにはつらくて、重くて、望ましくないからと、愚痴をこぼせなかった経験は、ないだろうか。彼らは、そんな、口には出しにくい悩みを、そっと掬い取って、きちんと言葉にしてくれる。
「こんなこともある。でも、それでいいのだ」
と、明るい曲調に乗せて、自然に伝えてくれる。
いくらやっても、果てしなく続く仕事。絶え間なく求められる気遣い。将来への、尽きない不安。いろいろなものがまとわりついて重くなった身体に、心に、彼らの思いが染み渡る。まるで、一杯のお白湯を飲んだ後のような静けさが、ゆっくりと広がった。
気付くと、目の前がじわっとにじんで、すーっと涙が流れていた。それは、最高のデトックスだった。
「私、ずっと欲しかった言葉をもらえたんだ」
音楽を聴いて、
「素敵!カッコいい!」
とかではなく、出会った瞬間に、救われた。そんなことを感じたのは、これまで生きてきて初めてだった。
◎ ◎
それからというもの、日々の暮らしの中で、なぜか彼らの情報に目が行くようになった。出会いにワクワクするなんて、何年ぶりだろう。
もっと聴きたい。もっと知りたい。気付けばそれは、私の生活の一部になり、小さな夢になっていた。最近は、音楽を聴くだけではなく、彼らの出るテレビ番組を観たいと、自ら録画するところまで来た。新しく出たCDの存在も認識して、気になり始めている。私はどうやら、出会いから1ヶ月も経たない間に、ファンの端くれになったようだ。
そういえば、10年前の時点ですでに、
「ミセスがいいんだよぉ!」
と、お酒の席で力説していた、筋金入りの友人がいたのを思い出した。大学を卒業して以来、遠く離れてしまって、会うことができないでいる。彼女は元気にしているだろうか。 久しぶりに連絡してみようかしら。もしかしたら今頃、大好きなミセスの活躍ぶりに、テレビの前でニヤニヤしているかもしれない。
もしも私が、
「私を弟子にしてくれ!」
と言ったら、
「今頃?何でよ」
と、笑われてしまうのだろうか。
それとも、
「こちらの世界に、いらっしゃい」
と、喜んでくれるのだろうか。この際どちらでもいい。いずれにせよ、私がこの世界に肩まで浸かる日も、そう遠くはなさそうだから。