眠れない秋の夜に合わせて、私のひと夏の思い出について綴ってみたいと思う。
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始まりは八月、いつものように某マッチングアプリを開いていた時だった。ひと夏の思い出というところで勘のいい人は気づいているかもしれない。遊びが多いマッチングアプリで、私は過保護な親から離れて手に入れた青春を謳歌していた。
ある日の深夜もう習慣になっていたスワイプを続けていると、ありえないくらいイケメンとマッチングしてしまった。これは由々しき事態、詐欺か?マルチか?とぐるぐる考えた。残念ながらその二つではなかった。
しばらくすると酔っているであろう文面でメッセージが来た。それでまあ会うことになってしまった。どうせ写真詐欺だろうと思っていた。でも文面から滲み出る高学歴と話の面白さに心惹かれて、会うまでの足取りは軽かった。
イケメンだった。しかもなぜだか知らないが香水じゃないいい匂いがした。肌が白くて鼻が高かった、二重はもう羨ましいくらいくっきりだった。服装までどタイプだった。もう終わりだ、これは沼ると思ったら床上手でもあった。なんなんだ神様、一人に何物与える気なんだ、半分キレそうになった。
一か月ほどで辞めたものの元ホストだったらしく、遊びの私にすら姫扱いだった。もうほんとなんなんだ。ラインは毎日来るし、そういうことをした後でもご飯に連れて行ってくれる。お財布を出す時間もなく気づいたらお会計は終わっているし、行き帰りに手は繋がれていた。たぶん人生で1番姫に近かった。ありがとうマッチングアプリ、ありがとうイケメン。
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ところで私には影のある人しか好きになれないという厄介な性質がある。友達はいっぱいいるのにどこか冷たい目をしていて、私にだけ人間関係の愚痴を話してくるとか。地元ではキラキラした陽気な人だったのに、大学受験の失敗からひねくれてしまったとか。
そういう表向きは明るいのに影のある人に縁がある。彼もまあそれに入る。就活の時期に入院が重なったせいで、輝かしい学歴と裏腹にきつくて薄給なところにしか就職できなかったらしい。東京で転職したいんだと言っては東京の大学時代の話をしてくれた。
もともとの向上心の強さもあって上京して就職することを教授などから薦められていた私は、この話にわくわくしてしまった。おかげでいろいろと変わってしまった。マッチングアプリにこんなに影響されるとは、実家を出るまでは考えもしなかった。人生何があるかわからない。
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とまあいいことばかり書いたが終わりはあっけなかった。性病が怖いだのなんだの理由をつけて、他の男と会うならもう会わないと言われた。私はこの高学歴イケメンの本命になれる人間ではないし、要求を呑んで仕舞えば遊びで束縛されるということになる。嫌だと思ってしまった。嫌だと送った瞬間連絡先はあっけなくブロックされた。
でも不思議と彼と付き合おうとか1番になりたいとかは思わなかった。いや正確に言うと思えなかった。ここでは割愛するが私の男運はとんでもないのだ。メンヘラ製造機に浮気、貢ぎなどなど。まあとんでもない人たちを好きになってしまってきた。おかげで二十歳を超えても彼氏はできず、処女もマッチングアプリの人で捨ててしまった。
だからだろうか、私は人と付き合いたいとか1番になりたいとか思わなくなってしまったのだ。確かにあのイケメン君を人として素敵だなあととか、異性として魅力的だなとは思った。だけど私が彼の本命とかありえないし、想像がつかないし、むしろ彼みたいな人がフリーの間は女の子みんなでシェアするのが世のためなんじゃないの?とすら思っていた。
私は人の心を捨ててしまったのかな。そう思いながら生きているとまた刺激的な出会いをすることになるのは、また今度書こう。とにかくあの夏だけ相手してくれたイケメン君はどこかで幸せに生きているはずだ。いやあんなキラキラした人を神様が放っておかない。2023年の夏だけ私のこと構ってくれてありがとう、幸せに生きてね。