「転職先の決め手は?」
この質問に正直に答えるなら、「ワクワクしたから」だ。
転職エージェントに紹介されて初めて知った会社で、なぜか分からないけれど、「あっこれだ!」と、応募する前から入社する気満々になった。
いつから転職を考え始めたかというと、1年以上前だと思う。
転職しようと覚悟を決めたのは、転職先に出会ってからだ。
「これからどうしようかな」と、ぼんやり自分の近い将来のキャリアについて考え始めたのは1年以上前で、当時は「次は〇〇の仕事がしたい」という強い希望もなく、「今の仕事は楽しいけれど、ずっとここで働くのは少し違う気がする」というぼんやりとした違和感を感じていただけだった。
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使った転職エージェントの人数は4人。4人目の人に、転職先である企業を紹介してもらい、本当に今の会社を辞めることにした。
1人目から3人目のエージェントの方には正直申し訳ないと思っている。
「転職しないという決断もよくありますので、まずはカジュアルにお話ししましょう!」という誘い文句に乗っかり、エージェント側と面談してみたはいいものの、「現職への違和感」を感じるだけで特に希望条件がない若手人材の相手をするのは大変だっただろうと、今さらながら想像する。
もちろん、全く希望条件がなく、「どこにでも行きます!」と意気揚々としているのではなく、土日祝日はしっかり休みたいし、リモートワークもできる職場がいい。
でも、私が挙げたことって、正直かなり多くの求人票に当てはまることであり、自分でもどんな仕事がしたいのかよくわからなくなっていた。
そんな私が、応募前から「ピンときた」だなんて、奇跡に思えてくる。
最終面接が終わって家に帰った私は、満面の笑みだったらしい。
いまこのエッセイを書いているときも、私はとてもワクワクしている。
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転職には退職がつきものだ。
会社を辞めることを上司に伝え、様々な上司からの引き留めにあい、それでも退職届を提出して、晴れて「最終出勤日を穏便に迎える会社員」になれた私は、最近なぜか忙しい。
私の仕事を引き継ぐ後任の人も決まっていて、引継ぎ作業も順調なのに。
何に忙しいのかというと、私をまるでお詫び行脚のような気分にさせる、「お世話になった上司、同僚への連絡」と「退職ご挨拶ランチ」なのだ。
他部署に異動した元上司もいるし、同期入社とはそれほど頻繁に顔を合わせることもないけれど、さすがに年末の最終営業日に突然「じゃあ、今日が最終日なので!辞めます!さよなら!」と去るわけにはいかない。
日本で、日本の会社に勤めているのだから、きちんとしなければと思いつつ、お世話になった人に個別に連絡しているが、「驚きました」「ショックです」という感想とともに約8割の確率で、「せっかくなのでランチに行きましょう」とお誘いを受け、「退職ご挨拶ランチ」が決まる。
在宅勤務の日もあるから、週5日オフィスにいるわけではない私にとっては、この「退職ご挨拶ランチ」の日程調整が意外と負担だった。
サラリーマン御用達のがやがやとした、それでも安い定食屋に行くわけにはいかないから、少しだけお店の候補も考えておかないといけない。
ランチのために顔を合わせた瞬間は、やはり少し気まずいから、天気や仕事の話をして、上手に良い雰囲気を作り出さないといけない。
どの上司も、同僚も、私の転職を応援してくれているようだったけれど、退職の報告ほど、美味しいご飯のおかずに合わないものはないと思う。
社会人としての新人研修に、「退職するときのコツ」としてレクチャーを盛り込んでほしいくらいだ。
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外食の機会が多いから忘れないようにと、パートナーとのLINEに「12/19(火)元上司とランチ、夜は同期からの送迎会」などと、「退職ご挨拶食事」の予定を書き込んでいく。
「上司に『会社辞めます』って言ったときも、人事課長に説得された時も気まずくて緊張したけど、まさかお詫び行脚みたいにランチに誘われたりするとは思わなかった」と言う私に対して、彼は「会社の人に愛されているね」と返事した。
そうか、私は愛されているのかもしれない。
体調を崩して休みをとると、当たり前のように「お大事に」と連絡をくれる同僚たちだけれど、それが本心かは分からない。
それでも、「会社を辞める」というターニングポイントで、わざわざランチに誘ってくれて、ご馳走してくれるというのは、所詮「仕事上の付き合い」ではあるけれど、少しくらい私のことを想ってくれている証拠なのかもしれない。
12月28日の最終出勤日を楽しみにしようと思う。