私と母はまるで親友のようだ。お互いに話せない話はないし、隠し事ももちろんない。友だちの話、恋愛の話、仕事の話、なんでも共有し合う。
これには良いところと悪いところがある。

良いところは、自分を理解してくれる人がいるという安心感が生まれること、それが母親という揺るぎない存在であることだ。何を言っても母が受け入れてくれないことはないし、激怒することもないのだ。だから、悩みやなんてことないくだらない話を気兼ねなく話せる。
悪いところは、お互いに相手を知っていることが当たり前のあまり、過度な干渉をしてしまうこと(主に母が私に)。

また、先ほど「何を言っても母が受け入れてくれないことはない」と言ったが、1度だけ頭ごなしに反対されたことがある。

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私が社会人1年目のことだ。もう、3年前になる。私は就職した会社で働いてた同僚の男の子を好きになった。その話ももちろん母に共有した。どんな人でどんなところが好きで、包み隠さず話したくなってしまうのだ。

しかし、私が好きになった人は体にタトゥーが入っていた。
それを聞いた母は急に顔色が変わって、「そんな人認めない」と言い出した。彼の、私を気にかけてくれる優しいところや仕事で頑張っていることを伝えても「ダメ」の一点張り。

思い返せば、母は時に古風で頑固な考え方を振りかざす人だった。それは昔からで、母の性格だった。曲がったことが嫌い、母の中での「真っ当な生き方」があり、そこを外れた人を軽蔑するようなところがあった。
「タトゥーの彼」の件で、母娘史上1番険悪になったのではないかと言うくらい揉めた。揉めすぎて会社に遅刻した日もあった。私は彼のことが本当に好きだったし、母にもそれをわかって欲しかった。でもそれは叶わなかった。

結局、「ダメ」で通した母が勝った。私はこれ以上母と家庭内で険悪な雰囲気になるのを恐れ、彼との関わりを少なくしていった。彼が私を追ってくることはなかったので自然に疎遠になった。母としては「良いことをした」くらいに思っているみたいだ。

その後、私は好きな人ができていない。だから「お母さんジャッジ」を受けたことはその1回しかない。
意外なことに、この件で母は妹に少し注意されたらしい。これは母から聞いたのだが、「もうお姉ちゃんが好きになった人がどんな人でも反対しないでね」と言われたそうだ。そんなに私が悲しそうに見えたのかと妹を少し見直した。

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親として、娘の彼氏になる人は「娘を幸せにできるか」「不幸にしないか」いわば、「娘の人生を預ける人」になるわけだから、慎重になるのもわかる。私が親になっても気になるだろうし心配するだろう。

でも、私はまだ実際に親になったことがないので、そのプレッシャーや不安感を実体験することはできない。だから、私の母がどのくらい悩んで反対したのかはわからない。けれど、私としてはもっと理解して欲しかった、と思う。

できるなら1度会って欲しかった。会ってもなお、「良い人だけどタトゥーが入っているから」という理由で嫌うなら、「本当にタトゥーが受け入れられないんだ」と理解できたかもしれない。いや、逆に意固地になって「なんでそこまでタトゥーにこだわるのか」と喧嘩になった可能性も高い。

私にとっては親友のように、様々なことに対して理解を示し、寄り添ってくれる母だからこそ、「タトゥーが入っている」という理由だけで私の好きになった人を嫌わないで欲しかったんだろう。

何事にも良い面と悪い面があるが、親友でも喧嘩することや絶対に譲れないことがあるように、母娘でも同じだと実感した。
次に私が好きになる人を母は気に入ってくれるといいな。