ずっと自分を家庭的な女だと思っていた。
共働きの両親を助けるために、幼い頃から、お風呂掃除やご飯炊き、洗濯物たたみといった簡単な家事は日常であった。小学校高学年になると、それに掃除、洗濯物干しや洗い物といった家事が追加された。

家をピカピカにして母の帰宅を待つと、母は頑張ったところに必ず気づいてくれて「なんて助かるのだろう。ありがとうねえ」とにこにこしながら言葉をかけてくれた。友人やその親たちからは「いつも家事手伝っていて本当に偉いね」と褒められていて、「そんなことないよお」と言葉では否定しながらも、小鼻は自慢げに膨れていた。

高校生になり、夕ご飯づくりが当番制となった。作り手に大学生の姉、高校生の私、そしてなんと小学生であった弟も追加されたのだ。週7の夕ご飯を5人で回す。仕事で忙しい父と母、サークルやバイトで忙しい姉は週1で入るのが精いっぱい。

ちょうど様々な理由で部活を辞めたばかりで暇だった私が、週2や週3当番を担当するという主力となった。

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結果として、この夕ご飯当番制というのが、私の家事能力を格段に引き上げた。ご飯を炊き、汁物を作り、メインのたんぱく質を1品、副菜としてサラダや煮物を2品ずつを1時間ほどで作る技術を身に着けたのだ。それも食べ盛りの弟含む5人分もだ。

朝家を出る前に、冷凍庫から肉や魚などを解凍するために冷蔵庫へ移す。野菜庫のメンバーを確認して、副菜をイメージしながら、足りないものを学校帰りに追加でスーパーにて購入する。

家に帰ると、すぐにご飯づくりに取り掛かる。肉じゃが、もつ煮込み、ハンバーグ、からあげ、さばの味噌煮、チキンカツやとんかつ、レバニラ、親子丼、三食丼、カレーやシチュー、ポテトサラダにきゅうりとわかめの酢の物、コールスローサラダ、ナポリタン、ミートソーススパゲティ、麻婆豆腐……和洋中なんでもござれだ。

味の評判は上々で、母は「まよは料理センスあるよね」と褒めつつ、「ありがとう、うまいうまい」と笑顔で毎度おかわりしてくれた。

こんな生活をしていたから、私は自分のことをずっと家庭的な女、特に料理に関しては好きだし、得意であると思っていた。しかし、彼氏と同棲を始め、実家を出てから、私は私の知らない自分と出会うこととなる。

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私は私が把握している以上に、めんどくさがりだったのである。掃除も洗濯も、ゴミ捨てさえ億劫だ。彼氏が在宅勤務で、パーフェクトに家事をこなすタイプであったのに甘えているのだ。

出社の日など仕事から帰るとまず化粧を落として部屋着に着替え、彼氏の作ってくれたご飯を食べると、すぐベッドに横になる。「まよお風呂入りな」と彼氏にたしなめられると、彼氏の用意してくれたお風呂に入って、彼氏が洗ってくれたパジャマに着替え、またベッドに横になる。そして寝る。

翌朝彼氏がまとめてくれたゴミ袋を持って朝5時半に家を出る生活だ。

改めてこう書き出してみると、彼氏に家事を頼り過ぎていて、非常にまずい事態であることが分かる。重々分かっているから、在宅勤務の日は夕ご飯を作ったり、掃除したりする。

相変わらず家事は彼氏の比重が大きいのに、私が作ったご飯を「うめえうめえ」「まよ天才だよ」と褒めてくれるので、作り甲斐もあるというものだ。

だから、彼氏がいるときは、まだ問題が小さいのだ。問題なのは、彼氏が実家帰省などで家に1人でいるときである。

家で1人の土日、私の生活は怠惰を極める。洗い物?彼氏が帰ってくるまでにまとめてやればいーや。洗濯物?まあ2日くらいためておいても平気っしょ。掃除?知らん。

ただひたすらベッドでゴロゴロして、YouTubeのショート動画にふける。そうしていると時間が溶けていき、力尽きたときに眠りにつき、目覚ましをかけることなく自然に起きる時間まで爆睡する。

あれだけ実家でご飯を作ることが好きだったのに、自分1人のためにご飯を作るのが非常に億劫で、コンビニでプレモルと大量のメンマを買い込む。そのメンマが夕食なのである。

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こんな土日を過ごしていて気がついたことがある。私は料理が好きなのではなく、自分の大切な人に笑顔で喜んでもらうことが好きだっただけなのだ、と。共働きで忙しかった両親が「うまいうまい」と食べてくれたときのあの笑顔、自分の方が明らかに家事スキルが高いのに「まよのご飯が一番」と笑顔で喜んでくれる彼氏。

なんてことはない。好きな人の笑顔が好きで、その手段として料理があったまでのことであった。私にとって、自己肯定感なき仕事は、家事においても会社での仕事においても、しんどいものだからだ。

そんなこんなで実家を出てから、彼氏の前ではアリバイ的な最低限の家事しかこなさなくなった私。そして1人のときはその最低限すらしないでメンマをむさぼり食う私。

そんな私でも最近続いている家事(?)がある。それは毎朝の豆乳青汁づくり。シェイカーに青汁粉末を入れてシェイクするだけで出来上がり。それだけなのに、なぜか美容にも健康にも良い「丁寧な生活」をしているようで、自己肯定感が上がる。それだけでなく肌と腸内環境の調子も上がった気がする。

ずっと自分のことを家庭的だと思っていた私だが、今毎日自分のためにやっている家事は、この豆乳青汁づくりだけという体たらくだ。

しかし、ここでもまた問題発生。豆乳青汁を飲んだあとのシェイカー洗いがめんどくさいのだ。10秒で終わる作業なのに、非常にめんどくさいのである。現状の状態で「食洗器買いませんか」とは彼氏に提案しづらいのが実情。

なにがめんどくさいって、めんどくさがる私が、今日も一番めんどくさい。