ギャンブルは絶対にやらないと頑なに決めていた私が、初めて賭け事に挑戦した。

結論、めちゃくちゃ楽しかった。

交際している人のご両親に会うことになった。相手のご両親は競馬が好きで、家族で何度か行ったという。ちょうどレースがある週に初対面することになった。

◎          ◎ 

金曜の夜にガストで待ち合わせ。

以前食べて美味しかった、カメオや宝石、月と太陽が缶に描かれた素敵なクッキーと、ちょっとお出かけの際に使えそうなハンカチを手土産に。
私はものすごく緊張しいで早口なので、落ち着いてゆっくりを意識して「◯◯さんとお付き合いをさせて頂いています。◯◯と申します。よろしくお願いします」と猫を被りながら挨拶した。

お父さんもお母さんも物腰が柔らかい感じで優しくて、心底安心した。

ご飯を食べながら、彼氏の幼少期の話を聞いたり自分や家族の話をしたりして、ゆるやかに時が過ぎていった。それでも緊張していてあまり記憶がない。彼氏に、「みゆう、ナイフとフォーク持つ手が震えてたよ。緊張してたんだね」と指摘され、自分では全く気付かなかったので恥ずかしかった。

道の駅に場所を移し、車中泊。もちろん車は別々で、隣同士に駐車。彼氏の寝顔をパシャリと激写したら、私もいつのまにか撮られていたようだった。

◎          ◎ 

朝お父さんに競馬で使う用のスポーツ新聞と赤ペンを買ってもらい、競馬場へGo。
その日は計12レース。11レース目がメインだった。
パドックといって、次のレースに出る馬がグルグルと歩き回り、様子を下見できる場所がある。私は全く知識がないので、「あの子なんだかルンルンしてるね」「足長くてそうだね」「名前が面白いね、ウワサノアノコだって」などと彼氏に話しかけながら手に持っていた新聞の名前にペンで丸をつけて、賭ける馬を決めた。

複勝や単勝などの意味もわからなかったので、隣に座っていたお母さんや彼氏に教わりながら投票カードにマークをして、馬券を買ってレース開始。
応援して叫ぶ人の大声が耳障りだなぁと思ったが、運動会だと思えば平気だった。大量の人が気持ちを昂らせて熱狂する様子を、直で久々に見た気がしてちょっと感動すらした。

そしていつの間にか私も「いけいけー!」と右手で拳をかたく握って、その集団の中に混ざり合って溶け込んでいた。
お昼に牛丼のお弁当と桃のアイスクリームを食べて、お昼寝を挟んで、12レース中8レースくらい参加した気がする。

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ギャンブルにしては少なすぎる賭け金、2000円のうち1500円分当たった。だから500円でスリルを味わえたことになる。これはビギナーズラックといえるのだろうか。

観戦しながら、「馬は生まれてすぐトレーニングさせられて競争させられて、どういう気持ちなんだろう?」と思った。気質的に大人しくて優しくて敏感な動物なのに。すぐに"なぜなぜ攻撃"をし始める私の癖が出始めた。
そして、「もし馬による逆襲があるならば、人間を同じように競わせて走らせて賭けるのかな……」と思ったが、優しい動物だからきっとそんなことは発想しないだろうという結論に至った。それにもう人類にはスポーツという立派な競い合い文化が存在する。

でも、競馬は緑豊かな芝生があって目にも優しいし馬を見て癒されるしで、賭け事の中では一番心の健康に悪影響がなさそうだと思った。やはり当たると嬉しいし、それまでの成績や人気指数を見て予想する過程も楽しい。

やりすぎなければ、良い大人の遊び方だと思った。こんな経験をさせてくれた彼氏のご両親に感謝です。
競馬場で別れる際、「もしよかったら次も一緒に行こうね」と言ってくださって、自分の人気指数も0じゃないんだと思って嬉しくなった。
「ヒヒーン!」と嬉しさを含んだ鳴き声をあげたい気持ちを必死で抑え、競馬場を後にした。