私は、新卒で勤めた会社を、数年で退職した。国際結婚をして、相手の母国へ移住することに決めたからだ。そのため、日本でさまざまな仕事をしたことがある、だとか、何かを語れるほど一つの場所で長く働いた経験はない。しかし、日本とイギリスという、ふたつの国で生活をして、違うライフスタイルを経験し、この世界に“完璧な仕事、職業”なんてないのだろう、と思うに至っている。
イギリスに移住し在宅で働いていても、完璧とはならない
日本にいたころに働いていた会社は、外側からみれば、理想のホワイト企業だった。ニュースで話題になるようなブラック企業とは真逆で、法令順守意識は高かったし、定時の9時~17時勤務をだいたい守り、あまり残業はなかった。後に、この残業をさせないという会社の方針が、人件費削減のため、と知るのにそれほど時間はかからなかったが。基本給がそれほど高くなかったため、残業も少ないとなると、給料は多くはなかった。そして、ストレスもあった。女性にやさしい企業、というキャッチコピーを標榜しながら、シングル女子や子どもがいない既婚女性、つまりフルタイムで働くことができる女性たちに大きな負担がかかっていた。いっこうにその状況が改善されなかったため、若くして見切りをつけ、辞めていく人も少なくなかった。
イギリスに移住してからは、在宅で働いている。フルタイムでの仕事も探したが、小さな町での仕事はそれほど多くはなく、現地の大学を卒業した人などの応募が集中し、採用1名という枠に、数百人が集まることもあった。そして、コロナウイルス感染拡大が始まったころから、私は在宅で働くことを決めた。今後、状況の変化はあるかもしれないが、しばらくは、このワークスタイルをつづけるつもりでいる。ただ、今の仕事も、完璧、だとは思っていない。自由は手にしたが、日本で働いていたときと比べれば年収は下がった。ストレスがないともいえない。コロナ禍において、安全な自宅で仕事ができることは、仕事を失った方や、財政的に追い込まれている方のことを比べれば文句は言えないが、それでも、完璧とはならない。
就職活動で周りの大人は、その会社の良い部分ばかりを強調する
以前、日本に住む友人の一人とテレビ電話で話す機会があった。話題が仕事のことになったとき、彼女は、人間関係のストレスは少ないものの、残業が多くて帰りが夜遅くになることも多いと言っていた。彼女も、パーフェクトな仕事、職場なんてないよね、と言っていた。そして、働く、ということは、実際にやってみないと、なかに入って始めてみないとわからないことが多いのだ。また、その仕事に飛び込む前は、「自分には○○があっている、大切だ」と思っていることでも、そのときの状況や経験を積んでいくなかで、変わっていくことも多い。学生で就職活動をしていたときには、周りの大人は、その会社の良い部分ばかりを強調する。それは、たくさんの学生に魅力的に思われたいからだ。しかし、人間が集まってできる組織には、社員一人一人の事情があり、当然良い面ばかりではなくなる。
より大切と思うもの、働く理由を見極め、それを犠牲にしない仕事を
だからこそ、いま私が思うのは、完璧な仕事を探すよりも、いつでも自分が柔軟性を持っていたい、ということだ。お金なのか、自由な時間なのか、やりがいなのか……自分がより大切だと思うもの、自分が働く理由を見極め、それを犠牲にしない仕事をする。そして、一つの仕事にとらわれず、流れるように色々な仕事をするのもいいと思っている。私自身で言えば、これからは、好きなライティング業務やブログの執筆・運営をしたいと思っている。そしてそれもまた、「好きなこと」と、「仕事になること」のあいだで葛藤が起きるかもしれない。しかし、そのときに、まあ、そんなものだよね、というゆとりや柔軟性を持っていれば、何とかなる気がしているのだ。