高校卒業後、遠い土地の専門学校に進学したが就職で地元に帰ってきた私は、気軽に遊べる友達が減った。くだらない日常会話をメッセージでやり取りすることはないし、遊びの予定を立てることももちろんない。
それでも地元に残っている子と遊んだり、専門学校時代の友達数人で旅行に行ったりしたが、コロナを機にゼロになった。

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「やほー!今何してる?(笑)」
真夏の昼下がり、突然メッセージが届いた。もう何年も会っていない友達・アミからだった。
「やほ!家でゲームしてる(笑)」
「テレビ電話しない?」
「ごめん、すっぴんだからフツーの電話でもいい?」
「いいよ~」
彼女とはごくまれに、こうやって電話をしていた。コロナ禍になってからは初めてのことで、少し緊張しながら通話ボタンを押した。

「……もしもしー?」
「やっほ~~」
「やっほー、久しぶり!声変わんないねー!」
「そりゃあ変わんないでしょ!」
つい先日会ったかのような、気さくな口調に思わず声が高くなってしまう。
そのままお互いの近況報告。私は数か月前に仕事を辞めたところだった。
「なんて言って辞めたの?」
すぐに言葉が出てこなかった。
「……んー、対人関係とか仕事量がいっぱいいっぱいで、メンタルやられちゃったんだよねー。だから『辞めまーす!』って言って」
私はおどけた口調でそう答えた。決して嘘ではない、オブラートに包んだ事実だ。適応障害になって長い間仕事を休み、現在も通院しているとは言えなかった。
「そっかー、いいなあ」
いいなあ。その4文字に胸がチクリとした。
「アミは転職とかしてないよね?」
「そうなの、もう6年目だよ?やばいよね~」
すぐさま話題を移した。アミはそれ以上言及してくることはなく、内心ホッとした。

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数日後、中学校で仲の良かったリコから連絡がきた。話をしているうちに、同じく中学校の友達・ユイと3人で食事をすることになった。
ユイは夫の後輩の奥さんで、何度か会って話をしていた。ユイは私が専業主婦になった経緯を知っているから、リコにも先日と同じようにやんわり伝えた。
「前の職場でメンタルやられちゃってさー」
「あーそういう人多いわー。あたしも含めて」
ああ、また。返された言葉に複雑な気持ちになった。
後日3人で食事をしたが、私はただただ聞き役に徹した。

時折、むしょうに友達に会いたくなる。カフェで話に夢中になりすぎて終電を逃しかけた夜や、甘いお酒でほろ酔いになってゲラゲラ笑い転げた時間が恋しい。久しぶりにあの頃みたいに、なーんにも考えずに笑っていたい。
ところが、いざ連絡を取ってみると「優しくされたい自分」と「気を遣わせたくない自分」がいることに気付いた。相手に気を遣わせたくなくて、オブラートに包み隠して「メンタルやられちゃってさ」と濁すものの、そのまま軽い調子で流されると勝手にモヤモヤしてしまう。かといって、月に何回通院をしていて身体が重たくて、などと事細かに話をして相手を困らせるのは避けたい。

今素直に考えてみれば、本当は話を聞いてほしかった。「何かできることがあったら教えて」と言ってほしかった。自分からはうまく伝えられないくせに。
アミやリコの言葉に悲しくなってしまったけど、うまく伝えられないことも含めて気付けたのは不幸中の幸いだ。

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人に言いづらいことも、どう返せば正解なのか分からない話題も、歳を重ねれば増えていくのだろう。いっそのこと、嘘をついたり濁したりするのが大人の振る舞いなのかもしれない。
それでも、伝えたい人には伝えるつもりだ。距離感なんて考えなかった、いつの間にか仲良くなっていた頃と変わらずに話したいから。
うまく言えなくても、分厚かったオブラートを薄くして、自分の言葉で。
そのために自分から少しずつ変わろう。そう思えば、会えない時間も大事にできそうだ。