ルッキズムの沼に足を突っ込んで引きずり込まれてから、人生の半分の時間が過ぎた。
自分の見た目が「みんなと同じじゃない」「整っていない」ことがものすごく嫌で、見た目を変えようと努力したティーンの頃に比べればまだ浅瀬の方に戻れている気がする。
周りの人や街ですれ違った人に「ダサい」と思われたくなくて、あれでもないこれでもないととにかく洋服を買いまくったり、ダイエット、エステ、美容医療、似合うメイクの研究、イメコンにハマってみたりと振り返ると結構な道のりを辿ってきた。
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その成果が出たかどうかは別として、さんざん容姿に苦しんで頑張ってきた過程については自分を認めて褒めてあげたい。
今の時代、男の子も女の子も多くの人が見た目も中身も自分磨きを頑張っているから、みんな凄いし偉いしそれぞれが素敵だ。
さて私は最近、炎のアイコンのマッチングアプリをインストールした。禁欲生活をした後の解放感からか、はたまたクリスマスの赤い誘惑か。
いや、正直に言うと「人生は一度きりなのだし若いうちに遊んでみたい」というやましい気持ちからだ。
数え切れないほどマッチしてメッセージをやり取りした。
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その中から、「あげてる写真の顔が可愛い」「やり取りした感覚がなんか合いそう」という理由である男の子とインストールした次の日に会うことに。
一つ年下の彼はパステルピンクの車で近くの駅まで迎えにきてくれた。
ドアを開けると予想通り可愛らしい顔をしていたが、表情がズンと暗かった(あとで聞くとかなり緊張していたらしい)。
会ったばかりで私も緊張していて、「寒いですね」というありきたりな会話から始まり、仕事、普段休みの日は何をしているか、どんな本を読むかという話をした。
どちらも物静かなタイプでフィーリングも合った。
話していると落ち着く。本当に初対面か?と疑った。
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偶然グリーンのチェックのトップスが合わせてきたかのようにお揃いで、こういうことがあるとすぐ運命や縁の存在を信じてしまいたくなる。
行き先はあらかじめ決まっていなかったが、カラオケに行くことに。
選曲のセンスも合って、好きなアーティストも被っていた。
歌うと思いのほか低くて良い声をしていてギャップにやられる。
彼も私の顔がタイプ、私も彼の顔がタイプということをお互い明かしあう。
顔が好きと言われると、いやでも照れてしまう。苦しんだ過去が報われた気がしてしまうから。
その後、大人の休憩所へと場所を移した。
子犬のように可愛くて母性本能をくすぐられる。
流行りのたま◯っち用語を用いると「みくす」した後に私達は付き合うことになった。
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本来ならその日のうちにするなんて私の感覚だとありえない。「オスになる瞬間が怖い」と過去のエッセイで言っていたくらいだ。
でも、「相手がオスになる瞬間、私もメスになっているのだ」という事実。Win-Winやないかいということに気付く。
「遊びたい」という気持ちが前提にあってその日のうちに「みくす」してしまった。
でも結局私はこの世界を遊び尽くせるような器用な女じゃない。根が真面目なのだ。
最初はちょっとした火遊びのつもりだったが、正式に付き合うことになって私達はアプリを消した。
帰りは家の近くまで送ってもらって、またすぐに会おうねと口約束。
これまでの彼氏は顔よりも、年上であること、職業や性格などの安定感に惹かれた「頭で考えた恋愛」をしていた。
顔が好き、声が好きと言った「好き」は表面的で良くないと思っていたのに、好きになったらどうしようもない。
ときめきに従順になったら胸が躍って仕方ない。これは本能なのか。
私はルッキズム沼の浅瀬でチャポチャポしながら生きる人生を愛したい。