「生きていることばは、結晶となってのこってうつくしい宝石になる」

『クレヨン王国月のたまごPART8』(福永令三/講談社)

紅茶を入れ、パソコンに向き合って文章を書き出すとき、いつも思い出す「ことば」がある。小学校の頃、電車通学をしていた私は本の虫だった。中でも1番のお気に入りは『クレヨン王国月のたまご』。主人公・星村まゆみが、中学受験に失敗し、うなだれていたところに青年・三郎が現れる。ニワトリとブタを仲間に加えた一行は、クレヨン王国という12色のクレヨンが12ヶ月をつかさどる不思議な世界へ向かい、地球を救うため「月のたまご救援隊」を結成して冒険に出るファンタジーである。全9巻にわたる大長編、まゆみの恋敵であり、いじめ役として登場するダマーニナという女性が、考えを改め、仲直りを申し出たあとのセリフだ。

彼女に課せられた使命は、人間の心から離れ、発された言葉が変化した液体を飲むことだった。月のたまごを守るためには人間たちの残したにくしみの残がいを体内に取り込まなければならない。しかし、にくしみだけを飲み続ければにくしみに侵されてしまう、同時に生きた「ことば」の宝石をあつめることで、耐えしのんできたのだ。口から宝石をとりだして、ダマーニナはまゆみに語りかける。

「だれが見ても美しい宝石でしょ。もっと小さいものなら、何百万、いや何億ともしれずもっているわ。これがあたしの体の中で、青黒いにくしみの液と対抗する力になっていたの。見せてあげたいな。それは、それはきれいなのよ」

『クレヨン王国月のたまごPART8』(福永令三/講談社)

物語終盤、王国を去ったダマーニナは宝石の雨を降らせ、この約束を守ってくれる。長い旅路の末、ようやく結ばれた三郎とまゆみを祝福するかのように。美しい雨粒のすべてが、ダマーニナなのだとまゆみは言う。幼い私は、輝く宝石の挿絵と文章にみせられた。私の中にある「ことば」は自分自身でもあるのか。生きた「ことば」はにくしみを癒すのか。この本に出会えたから私は「ことば」の力を信じ、「ことば」を残してみたいと思うようになった。私たちの心も、宝石と、青黒い液が混在している。人生を、美しい気持ちだけ抱えて歩む人はいないだろうし、逆もまたしかり。自分の感情を今一度、心の中からとりだして、「ことば」にしてみるのは素敵なことではなかろうか。青黒い液と混じり合った歪な宝石で良い。(実際の宝石も結晶する途中に不純物がとりこまれることが多く、むしろそれが天然の証、個性とされたりする)出来上がった文章を眺めてみると、私って実はこんな気持ちだったのか、と整理される。

かがみよかがみは「ことば」のショーケース

さて、自分の感情を形にしたら、他人に見てもらいたくなる。でも、誰かに見せるのは、勇気がいる。自分の言葉が誰かを傷つけるかも。否定されるかも。不安になってしまう。発信する場所は沢山ある。140字で好きがもらえるTwitterは私にとって心地良かった。するすると水のように流れていくし、反論されたら消せばいい。それは気楽だけれど、ちょっともったいない。だって明日には、あなたの「ことば」は忘れ去られてしまうかもしれない。
あなたの宝石を「かがみよかがみ」というショーケースに入れて飾ってみませんか?と私は提案したい。この場所には、沢山の子たちの心の中から取り出した「ことば」が並んでいる。記事はどこへも流れていったりしない。この場所にあなたの形を残すのだ。
 

編集部は、あなたの最初の話し相手

消せないの怖いよ~、ブログでいいじゃん、と考えるのもよく分かる。ちなみに私はブログは続かなかった。見えない読者に向けてどう語りかけて良いのか分からなかったから。
「かがみよかがみ」も、サイトに来てくれた見えない読者があなたの文章を読む。でも、あなたには味方ーー最初の読者になってくれる人がいる。エイヤっと投稿ボタンを押せばジャジャーン!現れてくれます、かがみよかがみ編集部。記者を経験したこともある人が最初の読者だ。これほど心強い味方がいるだろうか?

私が最初に投稿したエッセイ。
29歳占い師の気づき。魔法の鏡も王妃を映せば平穏だったのに

恥ずかしいけれど実際のフィードバックの一部を載せてみる。

おもしろかった!どうもありがとう! 夜が明けていく感じ、すごく好きだったんだけど、ちょっと長くなって思考がループしてしまったので、そのへんは削りました。
>何故って私自身も絶えず取捨選択をして生きているからだ。
他者と比べるなというのは簡単で、自分自身も比べてるというのはすごくよくわかるなと。そして、自分だけを、見られるように努力しなければならない、というのもその通りだなと思いました。

編集部のフィードバックからの引用

実は、もともと4000字という文字数(目安は1500字)で送ってしまったのだが、長くなった原因は同じことを繰り返していたからだった。
1人で書いてたら絶対気づかなかった。感想までもらっている。この高級旅館もびっくりのいたれりつくせり。マーカーを引いて「なぜこの表現をつかったの?」とも聞かれた。返ってきた「なぜ?」を受けとめ、文章をなおすのは、今一度自分と向き合うことにつながるはずだ。
ショーケースに並べる前に、一緒に宝石を磨く手伝いをしてくれる人がいることを知って欲しい。あなたは1人じゃない。

イベントに来れば読者の顔が見える

書き出せないと悩んでる人もいるかもしれない。そういう方は、イベントに参加してはどうだろう。編集部の方と直接会えるから、あなたの最初の読者を知ることができる。日常のモヤモヤ、今まで誰にも相談できなかったこと、つらかったこと。あの人に聞いてもらおう、という気持ちで書き出してみるのだ。
あるいは、イベントで隣に座った子の顔を思い出してみたり、かがみすとのTwitterを覗いてみるのもいい。きっとどの子もあなたと同じように、何かを抱えている。「ねぇねぇ聞いてよ」と、文章でその子たちに語りかけてみて。きっと画面の向こうであなたを待っている。