「女性だから、ゴール決めたら2点ね!」

彼の言葉はきっと、優しさから出たものだったと思う。

その時私は、とあるコミュニティで開催されるフットサル大会に参加していた。
唯一の女性プレイヤーだった。

ああ、またか、と虚しさが胸に広がった。
それでも私は顔を上げ、「ありがとうございます!」と答えてボールを蹴り始めた。

「やりたいのはこれだ!」と心の底から思えたサッカー

最初にサッカーをはじめたのは、小学校4年生の頃だったと思う。今まで親に勧められてやったバレエやピアノなどの「女の子らしい」習い事は、すべて続かなかった。「私のやりたいこと」ではなく、「親が私にやらせたいこと」は、どんなに取り組んでも、決して自分ごとになってはくれなかったのだ。

そんなとき出会ったのがサッカーだった。友人と初めて公園でやったとき、「私がやりたいのはこれだ!」と心の底から思えた。すぐにサッカー少年団に入り、毎日練習に励むようになった。
中学校に入ってもサッカーを続けたいと思っていた私は、女子サッカー部がある私立中学を受験したいと親に申し出た。しかしながら、「うちにはそんなお金はないのよ」と一蹴された。子供心ながらに自分の家が裕福ではないことを理解していたため、もうそれ以上何も言うことができなかった。結果的に、家からほど近くの公立中学校に入学することになった。しかしながら、まだサッカーをしたいという気持ちを諦めきれなかったので、思い切ってサッカー部の顧問に、女子は入部できるのかを聞きにいくことにした。彼の答えは曖昧で、「うちは『男子』サッカー部とは書いてないから、女子も入れるんじゃないかなぁ」というものだった。

セクハラ・パワハラが日常茶飯事の世界だったけれど

私は入部を決め、唯一の女子プレイヤーになった。

その3年間は決して楽なものではなかった。思春期の男子というのは、デリカシーのない発言をぶつけてきたりする。今よりいくぶんかぽっちゃりしていたため、私がボールを蹴るたび、「ドスコイ!」とからかう男子もいた。先生が助けてくれることもなく、私は見つからないように一人で何度も泣いた。

セクハラ・パワハラが日常茶飯事の世界で、ボールだけは私を裏切らなかった。そして私も、どんなことがあっても、サッカーだけはずっと好きだった。人生で初めて自分の意思ではじめたサッカーは、続ければ続けるほど、私に自信と勇気を与えてくれた。辛いことにもまっすぐ立ち向かえるようになったのはサッカーのおかげで、そしてそんな成長する自分を好きになることができた。私にとって、人生で最も大切なスポーツだと思っている。

やさしくされると「今までの頑張りを否定されている」ように感じる

高校入学を機に、続けられる環境がなくやめてしまったが、ときおり体育の授業でやるサッカーが大好きで、大学に入学してからも、自分が所属するコミュニティでサッカーやフットサルをやるとなれば、できるかぎり参加していた。そして、そういったときに必ず覚える違和感があった。男性プレイヤーの「女性プレイヤー」に対する扱いだ。

「女性がいるの?じゃあ男性もう一人入っていいよ」

彼らは、体格的なハンデを考えて提案してくれているのだと心ではわかっている。それでも、気を遣われているのが辛い。正直、運動神経が悪くサッカー未経験の男性よりは、活躍できる自信がある。それなのに、私よりサッカーが上手じゃない男性にはハンデがなく、数年経験がある私にはハンデがある。まるで自分の今までの頑張りを否定されているようで、やさしさだとわかっていてもやりきれないのだ。

同じことを仕事でも感じたことがある。高校時代に引っ越しのアルバイトをしていたとき、「女性だからそっちの軽い荷物を運んで」と何度も言われた。私と男性アルバイトの時給は同じだ。私は同じくらい役に立ちたかった。役に立てると信じていたからその場に立っていた。その気持ちを踏みにじらないでほしかった。

「あの、私、運びたいんです。役に立ちたいです。」

勇気を出してそう訴えると、社員さんは、「わかった。」と私に大型家具の梱包や、腰をいためない運び方を教えてくれるようになった。

後日、その社員さんにタンスの解体を教えてもらっていると、他の社員さんが通りかかった。「あれ、バイトの子に自分から教えるなんて珍しくない?」と聞かれた彼は、「この子は頑張ってくれるから。」と笑って言ってくれた。

自分の頑張りたい、という思いが届き、実を結んだ瞬間だった。信頼して色々教えてくれていたのだとわかり、本当に嬉しかった。

女性だから、男性だから、で分けることが合理的な場合もたくさんある。でも、どんなときでも、そのカテゴリーだけではなく、個々別々に考えてほしい。男性でも、もしかしたら筋力がなく、重たいものを運べないかもしれない。女性だって、ハンデをもらうことを「ラッキー」と思わず、役に立ちたいと願っているかもしれない。その想像力だけが、相手を個人として見つめることが、相手を救うから。どうかカテゴリーで思考停止する人が減りますように。

ペンネーム:あやぞ

都内の私立大学に通う4年生。恋愛と婚活を科学する・いきなりデートラボの編集長。ゴールデン街のUPOUTというお店でバーテンダーをしていたりする。好きな漫画家は清野とおる。Twitter:@gomieuazarashi