今、各地で広がる「フラワーデモ」でたくさんの女性たちが語る性被害を報道で読むと、胸がぎゅっと痛くなる。自分にもあったことを思い出す。入社したばかりのころはNOと言うどころかなかったことにしたり、笑い話にすることでしかやってこられなかった悔しさも、胸が痛い理由だ。

飲み会で、男性が突然、私の服の中に手を入れてきた

新聞社に記者として入社して2カ月ぐらい経った飲み会でだった。取材相手の20代の男性と、同じ記者の先輩男性と一緒だった。私は初めての取材先との飲み会で緊張していたが、男性の隣に座り、たわいもない話をして場は和やかだった。

しかしそれぞれお酒が入ってきた中盤ごろ、男性が突然、正面の先輩としゃべりながら私の背中に手を回し、服の中に手を入れてきた。手は脇にのび、横から胸をまさぐっている。突然の驚きと、飲んでいたお酒の酔いで、頭の中は一瞬でぐにゃぐにゃになった。でも、目の前には必死に取材先を立てて笑っている先輩記者。「ここでやめてくださいと言ったら取材先を非難することになってしまう」。とっさに思い、少しだけ体をずらして離れた。すると次は笑いながら無言で私の手を自分の股間に押し当ててきた。「触れ」というかのように、自分の手を私の手の上に置いて離さない。頭の中は必死に「こういう時、正解の対応は?」と考え続けていたが、答えは浮かばなかった。
結局、私は手を振り払えず、むしろ「こんなこと何でもないですよ」と虚勢を張るかのように笑顔のままでいた。

やっと飲み会は終わり家に帰った私は、疲れて化粧も落とさずスーツのまま、自宅の床に倒れ込んだ。携帯を見ると男性から「家に誰もいないからおいでよ」と連絡が来ていた。思考が完全に麻痺していた私は「行かないと」と思った。でも気づいたら朝だった。眠り込んでいたようで、催促の連絡は入っていなかった。向こうも寝落ちしたようだった。

一緒になって泣いて怒ってほしかった

翌朝は昨夜のショックと二日酔いのつらさで取材に全く身が入らなかった。車を運転しながら、よく分からない涙だけぽろぽろ出た。
男性からはその後、「○○(呼び捨て)の仕事への姿勢を尊敬してる。また飲もう」と連絡が来た。馬鹿にされているんだとやっと気づいた。二度と会いたくなかったが、会社としては大事な取材先。絶縁して文句を言われるのも怖かった。

悩んだあげく年が近い男性の先輩に相談した。先輩は親身になって聞いてくれたが、話を聞き終わってしみじみと言った。「○○さん、そういうの慣れてなさそうだもんね」。
私はその先輩をとても尊敬していて今でも大好きだが、この時のこの一言は辛かった。我慢していた涙がどばっと出た。「慣れていない」私が悪かったのか。世間知らずの私が悪かったのか。そう思うことが、昨夜触られたことよりも辛かった。先輩は慌て、私と男性が2人になってしまいそうな時は必ず自分もその場に同行すると約束してくれた。幸いにもその後、飲み会を何度断ってもトラブルにはならなかった。

私はこのことをその後、時間がたってから何人かの友人に話した。話す時はなぜかその時の感情をうまく言えず、「こんなことあってさ、最悪じゃない?」と軽い調子で話した。正直に話すと泣いてしまいそうだったし、「こんなことで泣くの」と思われるのが怖かったから。でも本当は泣きたかった。一緒になって泣いて怒ってほしかった。

当事者が声を出せなくても、隣にいる人には止める力がある

その後もいろんなハラスメントにあい、そのたびに悩んで対応を変えてみた。でも、笑って適当に流すとエスカレートし、咎めると逆ギレされた。結局何をしても有効ではなく、「私が一人前にみられていないからセクハラされるんだ」とただただ悔しくもなった。「なった」ではなく今もそうだ。結局、どう対応するのがいいかは今でも分からない。

でも一つだけ分かったことは、被害に遭っている人が目の前にいたら、私は止められるということだ。当事者が声を出せなくても、隣にいる人には絶対にその力がある。あの飲み会で、目の前にいた先輩が一言、「それはアウトです」と言ってくれていたら。冗談ぽくでもいいから、何でもいいから言ってくれていたら、私は少し救われた。

自分の守り方はまだ見つけられていないけど、周りの被害にはNOを言う。悔しいけど、それだけはやっていくと決めている。