どんなに頑張っても遅刻をしてしまう。配られたプリントや手紙をなくしてしまう。相手が困るまでおしゃべりをしてしまう。メールの誤送信に添付ファイルの付け忘れ。忘れ物は日常茶飯事。行動が場当たり的で衝動的なため、小さい頃の通知表にはいつも「計画性を持って行動しましょう」と書かれていた。

ここでなにかに気づいた人。自分にも当てはまる、と感じた人。

偏見や興味を持たれることを承知で告白すると、私はADHD(注意欠陥多動性障害)という発達障害を抱えている。

私に限っていえば、こんな状態だ。
・注意力散漫(忘れ物、メールの誤送信)
・遅刻が多い
・落ち着きがない(べらべら喋る、じっとしているのが苦手)
・脳内がごちゃついている
・部屋もごちゃついていて片付けが苦手
・関心の有無で取り組み方に大きな差が出る
・後先を考えて行動するのが苦手(衝動買い、他)

出かける準備をしているときに他のことが気になってしまうと、準備を一旦中断して別のことをはじめてしまうのだ。これが遅刻の原因。
たとえば歯磨きをしている最中、シャンプーの買い置きがあったかどうかに気をとられてしまうと、歯ブラシをくわえたままストックを見に行ってしまう。いますぐに必要なものでもないのに。

職場のデスクもすぐにぐちゃぐちゃになってしまい、先輩社員に片付け方を教わる、という情けないエピソードもある。

家のなかもぐちゃぐちゃごちゃごちゃ

お察しのとおり家もはちゃめちゃだ。
害虫とカビには気をつけているものの、物が散乱していて「困ったらとりあえず押入れにぶち込む」が私の片付け方法だった。もちろん押入れの管理もできていないので、入れたはずの物を取り出すのにとんでもない時間がかかる。
120×90cmの大きなテーブルも、どこにしまったらいいのか分からないものをぽいぽい置いていたら作業スペースがほぼなくなってしまった。

発達障害があるとはいえ、やっぱり人並みのことはこなせるようになりたい。なにより「どうせ発達障害者だから……」と自分が自分の障害に甘えるようになってしまったらどうしよう、これが一番の恐怖だった。

ぐちゃぐちゃごちゃごちゃの世界から抜け出したい。実家を出て人に面倒を見てもらえなくなっても、工夫次第でなんとかやっていけるんだという自信を持ちたかった。本格的に対策を。絶対自力で快適な暮らしを手にしてやる。自分の行動パターンを必死で分析した。思い至ったのは「どの時点で物事が混沌としていくのかを知る」ということだ。

机の上を見てみる。「置く」の段階で止まってしまっていて「しまう」の段階にたどり着けていなかった。しかし、過去何度も「しまう」にチャレンジしたが、その習慣は続かない。どうしたものか。

思えば発達障害だと診断されるまでは、ただのだらしない人だった。でも診断されることで、時間はかかったにしろ、できないものはできない、でいいんだなと割り切ることができた。むしろできることとできないことがはっきりしたからこそ、自分のだらしない部分と向き合うことができたのかもしれない。

「置く」ことはできる私のルール

きちんとできないなら、きちんとしなくていいルールを作ろう。
私は障害を逆手に取ることにしたのだ。
100円均一でカゴをいくつか買ってくる。とりあえず物を放り投げるためのカゴ。化粧品・DM・充電器、そして処理に困った物。
「置く」ことはできるのなら、置くだけでなんとなく仕分けされる環境を作ればいいのだ。そうすればガサゴソ探すのも一箇所で済む。で、カゴはなるべく蓋付きのものを選ぶ。溜まった埃を掃除する、という面倒事をカットできる。

カゴだらけの部屋はちょっとダサいが、自分の持ち物を管理できないというのもなかなかダサい。

服も畳めないならとりあえずハンガーラックへ。床に置くと放置してしまうから。

問題の押し入れにも、そこそこ大きな「とりあえずエリア」を設けた。

この「置くだけルール」で部屋の状態は随分マシになった。
仮に友達が遊びに来るとしても、カゴを押入れに隠すのと、ただただバラバラにものを入れるのとでは復旧作業にかかる手間は大きく違ってくる。

時間のあるときにできる範囲で整えればいいのだ。

ちなみに、忘れがちな洗濯槽の掃除やカビ取りは通院の日にまとめて行うようにしている。これも、なんとか日時を覚えていられる定期通院を利用したルール。

「ひっくり返して」みたらどう?

だらしない私を変えてくれたのは、なんと障害者の私だった。
「発達障害ですね」
と言われたときは、とても悲しかったし当たり前のことができない自分を責めた。でも自分を責めるのも、自分に責められるのも体力が要る。あっという間に心がへとへとになる。

障害とまではいかなくても、どうしても苦手なことは誰にだってあると思う。克服のためにいろいろ努力をしている人もそれなりに見てきた。かく言う自分もそうだった。

でもちょっとの開き直りを自分に許すことで楽になれたのは間違いない。偉そうなことは言えないけれど、苦手なことを逆手に取って「ひっくり返して」みたらどう? ちょっと肩の力を抜いてさ、というささやかな提案ならできるかもしれない。

ペンネーム:スズキコトハ

ADHD・その他に悩まされながら社会をぷらぷらゆらゆらしている。
好きなことは調べもの。 死ぬまで学生でいたいな。
Twitter: @kotoha_126