――セクシュアリティーは、とてもセンシティブなテーマだと思います。知識がないことで批判を受けたり、誰かを傷つけてしまう可能性があるかもしれない。表現する際にそうした怖さはありましたか?

もちろん怖さはあります。知識があれば失敗しないと思いがちだけど、そんなことはない。もし「言い方として、そうではなくてこうですよ」と言われたら、その時はすぐに「あぁすみません」と素直に謝って、そこで教えてもらった方がいいのかなと思うんです。

企画を始めたときは極力知識を入れなきゃと思って勉強してきましたし、今回の映画制作にあたって同性愛者の方や、シングルマザーの方にも、たくさん取材を重ねています。

ただ、批判を受ける可能性ばかりを常に考えてしまうと、何も表現できないとも思います。だったら黙っている方がいいよってなりますよね。だから、表現が誰かにとっての何かきっかけになったり、前向きになったり、考え方が変わったりするかもしれないというプラスの面を考えていくしかないのではないでしょうか。そしてもしも誰かを傷つけてしまったら、きちんと謝って、教えてもらう。

アサダアツシさん
企画・脚本担当のアサダアツシさん

少し目線を変えることでもう少し生きやすくなるんじゃないかな

――息をこらすように生きてきた主人公が、自身の内面を変えていくことで、周囲も少しずつ変化していく様子が印象的でした。「生きづらさ」について、アサダさんはどのように捉えていますか?

今は生きづらさを抱えている人がたくさんいるように感じます。でも、もしかしたら少し目線を変えたり、こだわりひとつを変えてみることで、もう少し生きやすくなるんじゃないかなって思っています。

大きなことを成し遂げよう、社会を変えよう、と最初から意気込むと、プレッシャーで押しつぶされちゃうじゃないですか。

――具体的には何かありますか?

この映画も、元々は、僕の身近な人に喜んでほしいっていう気持ちから始まったんです。放送作家として、20年くらい前に関わっていた深夜番組で、スタッフのあるリサーチャーと仲良くしていて。「いつかゲイのうちらが『こんな恋愛したい』って思えるようなもの作ってよ」って言われたことから、この映画の企画が始まりました。

社会の変化も、自分や、自分の周りから始める方が、結果的には大きく広がっていくんじゃないかなって思います。

例えば脚本だって2時間のものを最初から書けって言われても書けないです。すごく細かく割って、映像にしたときに5分ぐらいの場面になるものをブロックで割って作っていく。5分くらいなら1日2日あれば書けるけど、最初から120分は書けない。社会が変わっていく流れって、それに似ているんじゃないかな。

映画『his』の一場面
映画『his』の一場面/『his』配給のファントム・フィルム提供

生き方や幸せに決まったかたちはない

――家族のあり方の変化や都市から田舎への移住など、「変化」が様々な点で描かれているような気がしました。

そうですね。映画を通して、生き方や幸せには決まったかたちなどないこと、好きな洋服を選ぶように、カラーもサイズもその時々で変更可能だということを感じてもらえたらうれしいです。

◆アサダアツシさんプロフィール

奈良県出身。 1992年フジテレビ『ウゴウゴルーガ』でデビュー。最初のスタートから現在に至るまでフリーランス。2020年1月に、かつて恋人同士だった男性2人の再会を描いた映画『his』の企画・脚本を担当した。

◆映画あらすじ
かつて恋人同士だった男性2人の、8年ぶりの再会を描いた物語。突然娘を連れて現れた渚を迅がどう受け入れるのかという恋愛ストーリーを軸に、セクシュアルマイノリティーの人々と古くから根付いている共同体の共存への希望、親権を争う法廷劇、変化しつつある家族の形、そしてシングルマザーが直面する過酷な現状などが描かれる。マイノリティーだからと何かを諦めて生きてきた迅と渚が、そして彼らに関わった人たちが、それぞれに境界線を越えていく人間ドラマ。

『his』配給のファントム・フィルム提供

◆映画情報
『his』
2020 年1月 24 日(金)より新宿武蔵野館ほか全国ロードショー
■キャスト 宮沢氷魚 藤原季節
■スタッフ 監督:今泉力哉 企画・脚本:アサダアツシ 音楽:渡邊崇
配給:ファントム・フィルム
©2020 映画「his」製作委員会