• 2017年NHK入社。「あさイチ」など生活情報番組の制作を担当した後、SNSと放送を横断したスマホ発のジャーナルプロジェクト「不可避研究中」の立ち上げに携わる。

    立野真央ディレクター
    立野真央ディレクター
  • 2009年朝日新聞入社。奈良、徳島で記者、大阪で紙面編集を経験。社内の新規事業創出コンテストに応募し、19年8月に「かがみよかがみ」を立ち上げ、編集長に。

    伊藤あかり編集長
    伊藤あかり編集長

立野真央ディレクター(以下立野):働いてる時に感じるジェンダーまわりの違和感ってありますか?

伊藤あかり編集長(以下伊藤):会社の決定権者のほぼ9割が男性なんですよね。なので、何かしようと思うと、いちいちOtoO翻訳しなきゃいけないのが面倒くさいなあと思います。

立野:O to O?

伊藤:おじさんtoおじさん(笑)。なんでこの企画を通したんだ!と上司がさらに上の上司に聞かれた時に、答えやすいような資料を作らないといけないんです。決定権者の男女比が偏りすぎてるからこそ発生する作業なんだろうなって思っています。

O to Oに注力しすぎ「私がやりたいことはなんだっけ?」

立野:具体的にはどんな言葉ですか?

伊藤:うちのサイトのターゲットは「もやもやを抱えている、社会に対して違和感がある20代の女性」なんですけど、それをおじさん達に説明するのが難しいので「若年女性」とか、「Z世代」とか。あえてわかりやすい記号にはめたりしています。おじさん向け資料に注力しすぎると「あれ?私がやりたかったことってなんだったっけ?」ってなってしまう。

伊藤あかり編集長
伊藤あかり編集長

メディア・企画作りで「型にはめる」は避けられないのか…もやもや

立野:企画とかで形にしようとすると、女の子をひとくくりにして、型にはめようとしちゃうことって避けては通れないなと思います。私も自分のなかで矛盾を感じています。

伊藤:違和感はあるけど、そうしないと伝わらない……ってないですか? 「かがみよかがみ」でいえば、エッセイの投稿規定を「18~29歳の女性」としているのですが、そうすると「なんで排除するんだ」と言われてしまう。でもみんなOKにするとなんのサイトかわからない、散漫になってしまう。

立野:アウトプットするときに、「こういう風にみてください」と方向づけするのがメディアの仕事でもあると思います。でも、実際にやりたいと思っていることは、「一人ひとりがみんなばらばらだ」ということを伝えること。ですので、メディアでアウトプットする時はいつも、そこの矛盾で引き裂かれています。

立野真央ディレクター

伊藤:「おじさんにはおじさんのコンプレックスがある!」と、「かがみよかがみ」のスピンオフで「おやじよおやじ」というサイトが社内であります(笑)。

おじさんのコンプレックスを否定する気は全くないですけど、一緒に載せてしまうと、このサイトは何を実現したいのかが、わかんなくなっちゃう。ある程度、型にいれてくということが必要なのかな、と。そこをどうやって、うまく説明していくかが非常に難しいんですけど……。立野さんがいう「矛盾で引き裂かれる」というところです。

立野:自分も、今回の企画で、「女だから男だからつかれた」ていう型にはめているんですけど、そのどちらでもない人が世の中には絶対いる。矛盾をいつも抱えてるんですけど、矛盾とたたかう気持ちを忘れないことが大切なのかな、と。

「女の子らしくありたい」も否定したくない

立野:私は、「女の子は女の子らしい格好をするのがいいとされて当たり前」と押しつけられるのが嫌なだけで、女の子らしい格好が好きな方を否定するつもりは全くないです。自分が選択する分にはもちろんいいと思う。ただ、規範になってほしくないんです。女の子にとって「女の子らしい格好をする」というのが選択肢のひとつになればいいなと思います。なので、番組をつくる際は「女らしい格好をしてる人が遅れてる」とならないように気をつけました。

伊藤:もはや、サラダをとりわけることが悪なのか、とすら思っちゃいますよね。「あれ?私、女らしいことしてる?性役割の固定化に加担してる?」みたいな。いや、これは冗談ですけど。

立野:そう。悪じゃないのに。

立野真央ディレクター

気を使い過ぎて誰もサラダにさわれない状況に…!

伊藤:とりわけたい人がとりわけてもいいんですけどね。

立野:それで、「女の子らしくていいね」と言われたい人がいたら、それは誰も否定はできないというか。別にいいと思うんです。

伊藤:難しいね。サラダの取り分けを「女の子らしい」と言っちゃったら……。

立野:規範なんですよね~。

伊藤:難しいですよねえ。だからもはや誰も、サラダにさわれない状況になるじゃないですか(笑)。極論か。

立野:女の子だから、とかじゃなくて、人間だからとりわけたいんです。女子力じゃない。人間力として。

伊藤:そうそう。だから、サラダ取り分けてもらった時の「女子力!」っていう合いの手はやめたいですね。

うちのサイトも「男受け」という言葉がすごい難しい。「私は男のためにオシャレしてんじゃねえ!私のためにオシャレしてんだ!」と、男受けを否定したい子もいるし、「男受けをしたい、モテたい」と思う女の子もいる。

もちろん、どっちもいていいはずなんだけど、両方とりあげると、矛盾した考えを載せている!という批判もある。でも全然矛盾してなかったりするんですよね。自分のなりたいものを目指そうゼ!っていう。そこがすごい、次の時代にきたのかな、って感じが私はするんですよね。

立野:そこは矛盾していない、両立していいんだぞ。否定しなければいいんだぞっていう。確かにまだ入りたてで、浸透してない、広がってない感じなのかな。そこの選択肢をいくつも提示できたらいいのかなって思います。

不可避研究中

誰もが避けて通れない、世の中の「不可避なテーマ」を自由研究中。MC稲垣吾郎、スマホとテレビでお届けする実験報道プロジェクト。
https://www4.nhk.or.jp/fukahi/
twitter @nhk_fukahi #不可避研究中
「ジェンダー」テーマの初回は12月27日(金)NHK総合 午後11時50分~午前0時20分