「この会社では、肌色のストッキングにヒールを履くのが規則です。
見栄えが悪くなるため、メガネの着用は禁止です。コンタクトか裸眼で仕事をするようにしてください」

今から約5年前、私が新卒で就職活動をしていた時のこと。
某百貨店に職場見学をした際、社員から衝撃的な言葉を言われた。

メガネもマスクも禁止、ストッキングでヒールが規則

驚きのあまり、思わずその場で聞き返した。「え?スニーカーや素足ではダメなんですか?」
いくらなんでも、規則が多すぎなんじゃないかと違和感を覚えた。

「スニーカーや素足ですと、見栄えが悪くなりますからね。お客様に喜んで頂くためです。服はこちらで用意したミニスカートを履いてください」

髪の毛を黒のゴムで一本にまとめた真面目そうで、だがどこか冷たい印象のある女性が、淡々と私にそう説明した。

「ミニスカート、ですか。冬に履くと、風邪を引きそうですね」
「風邪は引かないように、体調管理には常に気を配るようにしてください。うちは、マスク着用も禁止ですので」

気付かぬうちに、風邪をお客様にうつしてしまったらどうしよう。そんな不安に駆られていると、更に衝撃的な言葉を告げられた。

「男性は、服装も眼鏡もマスクも自由です。女性社員だけが皆この規則を守って仕事をしています」

男性にもこの規則が適用されていると思いきや、女性だけだなんて。いったいどうしてなの?と、大きな疑問を抱いた。
「女性社員は、この会社にとっての華ですからね。明るくて清潔感のある印象を、お客様に与えなくてはいけません」

その言葉を聞きながら、この会社で働いている自分の姿を想像した。
ヒールに肌色のストッキング、ミニスカートを履き、毎日コンタクトをつけて仕事をしている自分。病気になっても、マスクをつけることなく、我慢して仕事をする自分。見栄えを良くするため、お客様に喜んでもらうため、会社にとっての華となるため……。まるで自分が飾り物の人形になったようで、ひどく悲しい気持ちになった。

友達に話したけれど「なんで辞退したの?」

「すみません、今回は選考を辞退します……」

と告げて、その某百貨店を後にした。
同じ大学の友達に、選考は辞退したと話したら、信じられないという顔をされた。

「あそこ、制服も可愛いし、給料も高いじゃん!辞退することないのに~もったいない!なんで辞退したの?」

「会社の華になることを求められて……それがしんどくて」
「別に良いじゃん。なんにもわかりませーんって顔で、ニコニコ笑って立っとけば。楽じゃん、そっちのほうが」

他の女友達数人にも話したが、皆から同じようなことを言われた。悲しくなったり、大きな疑問を持ったのは私だけ? そう思い、ますます落ち込んだ。

「どうして女性だけが、こんな厳しい規則を守らないといけないのか。とても苦痛だ。誰か、賛同してくれる人はいないのか」

と、声を大にして、叫びたくなった。

「私も」と声を上げられない女性がいるかもしれない

捨てたい、捨てたいと願いながら、5年経った今でも捨てることができない体験。まだ世の中には、苦痛を感じていても「私も」と声を上げることができない女性がいるかもしれない。

近年では、私のようにヒールを強制された女性が苦痛を訴える「#KuToo」という社会運動が大きな注目を集めている。訴える人が増えることで、誰にも苦痛を訴えることができずにいる女性がいなくなるはず。心からそう信じている。