「ごめーん、遊ぶ約束してたけど、急にバイトが入っちゃって。
遊ぶのナシにしてくれる?」

今から6年前の、大学1年生の時。
当時、私には友達と呼べる同性の友達が何人かいた。
だが、その友達から突然遊びを断られることも多くあった。

「いいよ、いいよ。エリちゃん忙しいもんね。
連絡してくれてありがとう、また一緒に遊ぼうね」

私は、相手に対して気持ちを伝えるのが下手だった。
本当のことを言えば、相手は怒るに違いない。
そう考えて、いつも当たり障りのない返事ばかりしていた。

本当は人の悪口なんて聞きたくない。好きな俳優や漫画の話をしたい

「この前はゴメンね、急に遊べなくなっちゃって。
でもさ、前から思ってたんだけど、話してる時にヘラヘラ笑うのって、
どうかと思うよ?こっちのこと馬鹿にしてるのかなって思っちゃった」

良かれと思って笑って話をしていたら、そんなふうに注意されてしまった。
何よう、ドタキャンしたくせに私に対して怒るなんて。
ムッとしたが、口には出さなかった。

「エリちゃんってワガママだよね~。会ったら自分の話しかしないし。
人前では仲良いフリしてるけど、本当はあの子のこと大嫌いなんだよね」

別の友達から、本人がいないところで悪口を聞かされることも多くあった。
本当は人の悪口なんて聞きたくない。好きな俳優や漫画の話をしたい。
そう思っていたのだけれど、相手の気持ちを受け止めてあげたくて、いつも頷いて話を聞いていた。

聞くだけでも、相手の悪口を言ったことになるのか

「のぞみちゃん、裏であたしの悪口言ってるでしょ」

ある日、ある友達からメールで呼び出され、こう言われた。私が悪口を言った?心当たりがないなあ。困惑した私は、腕を組みグイッと首を傾げた。

「言ってないよ。誰に聞いたの?」

「ミサ。エリちゃんはワガママだよねって言ったら、頷いたって」

聞くだけでも、相手の悪口を言ったことになるのか。
友達からそう言われて初めて、相手を怒らせることをしたと気付いた。
頷いて話を聞いたのはよくなかったけど、
ここまでキツい言い方することないんじゃない?
そもそも、私は悪口なんて言ってないんだし・・・
内心で憤りを感じたが、その時も口には出さなかった。

全部切ったら、スッキリするかなあ

「お客さん、すんごい髪の毛伸びてるね。バッサリ切ったら?」

「うーん、せっかく伸ばしたのに、切るのはもったいないような・・・
長い方が、可愛らしくて見た目も良いし」

「いや~でもかなり鬱陶しいよ?表情が明るくても、暗く見えるし、
バッサリ切ったほうが良いと思うんだけどなあ」」

全部切ったら、スッキリするかなあ。いつも自分の都合ばかり押し付ける友達も、悪口ばかり言う友達も・・・美容師さんの言葉を聞いた瞬間、そんなことが頭に浮かんだ。

一本、二本・・・美容師さんの鮮やかな手つきで、髪の毛が切り落とされてゆく。
ひとつ減るごとに、心身に大きな負担をかけていた重荷が、ひとつ減っていくのを感じた。

「友達も、全部切ったらスッキリするかな?」

不意にそんな言葉が頭に浮かんだ。
たくさん友達がいたほうが、見た目が良いし、フツウだから。そう思って、今まで友達と付き合っていたけれど。心と身体に負担をかけ、表情を暗くしているのなら、バッサリ切ってしまったほうが、良いんじゃないかしら。

「エリちゃん、ミサちゃん。悪いんだけど、今日で友達やめてもらえるかな?」

メッセージを送った瞬間、視界がパアッと明るくなるのを感じた。

「あっ、お客さんやっぱりショートが似合うねえ」

カットが終わると、美容師さんが鏡を持って今の姿を見せてくれた。
そこには、凛として爽やかなショートカットの自分が映っていた。

「バッサリ切って正解でした。どうも、ありがとうございます」

お礼の言葉を告げて、美容院を後にした。
鬱陶しい、暗いと思っていた髪の毛が綺麗さっぱりなくなり、
以前より軽い足取りで歩くことができるようになった。