私には「ピンク色の呪い」がかけられている。人によってはこれが赤だったり黒だったり青だったり、あるいは星とかハートマークとかなのかもしれない。
私にとってピンク色は「かわいくない自分には許されない色」
私を、24年の間、強い呪縛で縛り付けていたのはピンク色だった。
小学生くらいの時、妹が産まれたこともあり、与えられるものは、色違いのものが増えた。私の持ち物の色はいつの間にか青になっていたし、私も「まぁ、そんなもんかな」と思っていた。当時、髪も短く長身で、チャンバラをしながら帰っていた。なんなら近所の人たちから男の子だと思われていた私は、少なくとも(あくまでステレオタイプ的に)「かわいく」はなかっただろう。
好きなアニメの美少女ヒロインが纏うのも、クラスで一番カワイイあの子の歯磨き袋もピンク色。私にとってピンク色は「かわいくない自分には許されない色」になっていた。
一方で、幼稚園や小学校低学年の時のカバンの柄はピンクのキャラクターだったし、引っ越し祝いにと親戚から貰ったTVやドライヤーも。新卒のときに社内のプレゼン優勝賞品でもらった道具もピンク色だった。(一緒に受賞した同期の男の子は、同じ型の青色をもらっていた)
「かわいくない私には許されない色」なのに、「女の子だから」と与えられる色は、私には「許されていない」ピンク色だ。いつしかピンク色は自分にとって「大きな矛盾の色」になっていた。ピンクをうまく纏えないのに、ピンクを与えられること、期待されることは、かなり苦しかった。
パーソナルカラー診断で先生が呟いた「ピンク、似合いますね」
だが、思わぬところでその苦しみは打ち破られることになった。昨年9月、ひょんなことから受けることとなったパーソナルカラー診断。私に下された診断を眺めて先生が呟いたのは「ピンク、似合いますね」だった。衝撃。うそでしょ、二十余年間の人生で一番避けてきた色なのに。
先生がシートを使って説明しながら、見本の化粧品の中からひょいひょいとピンクのコスメを選んでいく。ショッキングピンクのグロス、紫のようなプラムピンクのリップ。ラベンダーのチーク。ピンク色の下地。いやピンク、ピンクはちょっと……と狼狽する私を横目に先生は笑った。「みなさん『自分にこの色はだめ』とかって仰るんですけど、そんなことないんです。ピンクにもいろんなピンクがあって、一人ひとり、似合うピンクは違います。だから、苅部さんのピンクもありますよ」
世界のどこかに私に似合うピンク色は存在する
ピンク色が好きだ。そう言えるまで、随分長くかかってしまった。
これ似合う、と勧められて速攻購入したくすみピンクのシャドウは、ラメが控えめながらも瞳をキラキラさせてくれるし、普段使いもしやすい。誕生日のプレゼントに友人から貰ったピンクのグロスも、わたしの肌の色にすごく似あっていて、気合をいれたいときに塗って修羅場を潜り抜ける支えになってくれる。ひとめぼれしたジャケットもクールな模様にピンク色の花が添えられていてとてもカッコイイ。
それでもやはり、いまでも素敵なピンク色に出会うと尻込みしてしまう。長年の思い込み(と言ってしまえれば軽いかもしれないが)は、そう簡単には変えられない。
でも私は知ってしまった。
24歳の夏。
絶対、世界のどこかに私に似合うピンク色は存在することを。
近ければ徒歩十五分のドラッグストアとか最寄りの駅ビルとか、はたまたちょっと頑張ってデパコスのカウンターとか。あるいはAmazonやZOZOTOWNかもしれない。足を延ばして、いつか海外に行ってみてもいいかもしれない。目の覚めるような、サンゴのような、朝焼けのような、こどものほっぺたのような、数多のピンクがそこで待っている。かわいくてかっこよくて強くて優しげなピンク色が。
今日も私は、私の「最強のピンク色」を探すのである。