生まれ持った容姿のことは、例え褒め言葉でも嬉しくない。「細いね」「痩せてるね」と言われてもストレスで嘔吐してしまって、やつれているだけだから。なんだか貧乳なことを遠回しに貶されているみたいな気分になる。

小学6年生の夏に始まった貧乳いじり

貧乳コンプレックスは小学校高学年のときから、持つようになってしまった。

そのぐらいの時期は、周りの胸が成長し始める。小学5年生の初めての泊まるイベント・自然学校で大浴場に入ったとき、明確な異変に気が付いてしまった。それは、周りを見渡すとみんな胸がスポブラを付けられる程度には成長していることだ。

対して、私の胸はまな板ぐらいしかなかった。いつもはっきり言ってくる友達にすら気を遣われた。何度もチラ見するのに、胸については言及しない。

私も話したくはなかった。
その時間だけは必死に話題をそらす。できるだけ見られないようにした。白いタオルや、胸まで伸びていた髪の毛で見えないように隠した。

でも、この頃は、当たり前のように成長すると信じて疑わなかった。

しかし、小学6年生の夏になっても変わらない。大人並みに成長している子もいる上に、プールの授業がある。

「私の体重が重いのって、胸だったんだ~」

同じクラスの女の子が、悪気なく私の胸を見ながら言ってきた。そこから、貧乳いじりが始まった。面白いと思っているのか知らないけれど、会話の中で「貧乳」と連呼してくる。しだいに、喋ったこともないような人たちまで輪に入ってきた。

だから、逃げた。授業が始まるまでは先生と話していた。それでも言ってくるものなら、注意してくれるから。始まると自由時間も泳ぎ続けた。練習しているなら、だれも文句は言ってこないし、喋りかけてくる隙も生まれないから。

それを繰り返すと、息継ぎもできないのに、25mが泳げるようになっていた。

バストアップ方法を試しても、私の胸は大きくなってくれない

高校生は水泳の授業がない学校を選べたから、貧乳いじりは起こらなかった。

ここに来ても成長していないし、コンプレックスも消えていない。だから、ありとあらゆるバストアップ方法を試していた。どれを試しても、私の胸は少しも大きくなってくれない。

サプリメントは効かない。二の腕の肉はマッサージでは動かない。生キャベツを食べるなど、食生活を工夫しても健康的になるだけ。筋トレをしても小さい胸が少し硬くなるぐらいしか変化がなかった。ナイトブラは形が良くなったけれど、バストアップ効果はなかった。バストアップクリームは保湿されるのと、冷え性改善には役立った。それだけ。

「巨乳が嫌なら、私の胸と交換してよ」
切実に思った。胸が大きいだけで、嫌い。

「大きいと肩が凝って大変」
と愚痴を聞くたびに
「貧乳の私でも、万年肩こりですが!」
と、キレそうになった。

パッドを入れて、ブラを駆使して寄せると谷間ができた

大学生になっても相変わらず貧乳だった。
しかし、違うことがある。私が胸を盛るようになったことだ。パッドを入れて、ブラを駆使して寄せると谷間ができる。それから「私はもういじられない。普通に生きられる」その喜びで、いっぱいだった。

ところが、問題解決には至らない。痴漢被害に遭った。寝坊して、身だしなみを整えなかった日。メイクもできず、適当な垢抜けない服で髪の毛もひとつくくりにしただけの隙がありすぎる格好で満員電車に乗った。

逃げても追ってくるし、周りに言っても冤罪を疑われるかもしれないし、暴力を振るうと私が捕まってしまうかもしれないと瞬時に考える。だから、睨むことしかできなかった。犯人は違う車両に行ったけれど、本当は警察署に連れて行ってほしかった。

弱く見えると、「簡単にターゲットにされてしまうのか」と悲しみと怒りで苦しい。

でも、私、もう愛想笑いもやめる

22歳の今でも、たまに貧乳いじりをされる。

「何カップ?」も聞かれたくない。答えなかったら「ノリが悪い」と陰口を叩かれて場の空気が悪くなる。正直に言うと盛り上がるけれど「軽い女」や「恋愛対象外」に認定されてしまうから。何を答えても途方に暮れる。

だから、いつも愛想笑いで誤魔化してきた。自分を傷つけず、相手の気分を害さないようにする方法だと思っていたから。

でも、私、もう愛想笑いもやめる。

「話題にされるのも嫌だから、答えたくない」と、言ってしまおう。場の空気が悪くなるなんて知らない。あなたが注目を浴びるための土台にならないから。

胸が大きくても小さくても関係ない。容姿をバカにしてくる人たちや、失礼な人たちにはNOと言ってしまえ。それぐらいで縁が切れるのなら、それは元からないものだったのよ。