おととしの3月ごろ、就職活動に翻弄されまくり疲れていた私は友人との飲み会が唯一の楽しみだった。
その日は2軒目に到着したところで熱量がピークに達し、やれメディアがどうなる、世の中どうなるなどアツすぎる内容が展開されていた。
そんななか、「よかったらどうぞ」 3人組のおじ様達からすっと唐揚げが差し出された。「え?食べかけじゃないですよね?」が口から出かけていたが、聞くと、私達の話に興味が湧いたそう。 今夜だけの付き合いだしと思って小一時間いろんな話をした。
「しずかちゃんみたいになりたいの?」
話題はいつの間にか私が「ドラえもんもサザエさんも見なかった」という話に。
なんでこんな話に行きついたのか今でも思い出せないが、1人の証券マンのおじ様が、とにかくすごい食いついてきた。
「ドラえもんで許せるキャラいないの?」と聞かれたので、「ギリ出木杉君かな。一番普通だし」 と答えた。ダメ男が許せない当時の私にとって、「普通」であることが大事だった。出木杉くんとしずかちゃんコンビが1番まともでいい。ただそれだけの意味で言ったのに「え、ってことは、しずかちゃんみたいになりたいんだ」と返されたのだ。
は?????
あてずっぽうすぎるにもかかわらず、頭の中をぐちゃぐちゃにされた。「なにそれ。私そんなこと一言も言ってないんですけど」のカウンターパンチが出てこなかった。あの時いくらでも反論できたはずだった。でも、その時は平静を装って「え~そうなのかな」しか言えなかった。
しずかちゃん。
のび太というみんなが放っておくような人にも手を差し伸べる。頭が良くてさわやかな出木杉君にも恋心を抱いてもらっている。でも誰にも平等である。
大学のサークルでいう「天使」枠。かつ「オタサーの姫」的要素もある(と私は思う)。
潜在的願望を見透かされた…??
一方の私は全然男ウケなんて気にせずに言いたいことは言っていたし、「ブス」と言われることもあるし、しずかちゃんとは正反対の人生だった。おしとやかにしてる自分を想像して気持ち悪いと思うし、そんなの男ウケを気にしてする行為だと思っていた。だからこそ自分に「しずかちゃんになりたい」という思いが潜んでいるかもしれないとバレたことが恥ずかしくて仕方がなかった。
自分さえも認めていなかった「しずかちゃんになりたい」潜在的願望を会って1時間しか経ってない人に言い当てられ、さらに非モテ人生を暴露された気がして、恥ずかしさがあっという間に私を埋め尽くした。穴があったらダッシュでかけこめるレベルで恥ずかしくなった。
「モテたい」と言えなかった
そう、私は「モテ」たかったのだ。 オタサーの姫と馬鹿にされてでもいいから実はモテたかったのだ。 男の人からちやほやされたいし、誰でもいいから「可愛い」と言われたかったのだ。 そう言ってくれる男性が誰でもいいから近くにいることで「普通」より上のコミュニティに食い込みたいと思っていた。
その当時は「モテたい」と言うのが悪い気がした。
大切な仲間である同性に嫌われたくなかった。「モテ」を気にする者を、仲間は排除したがった。圧倒的嫉妬の目線を、私も、周囲も注いでいた。
だからこそ就職活動では人がうらやむような就職先にいって人よりうんと稼いで、そうして可愛い女に「すごい」「うらやましい」といわせてやる。そういって自分を強く、大きく見せることで精一杯に生きていた。
素の自分をさらすことが苦ではなくなった
でもやっぱりむなしかった。 結局のところ無理をして心も体もボロボロになって、ガス切れになってしまった。今は大学院に行き、就職もせず、はなばなしい人生とは程遠い生活をしている。
それでも今の方がラクだ。 2年以上たって、女のコミュニティに属そうとすることをやめたせいかもしれない。「モテたい」という気持ちは薄れたけど、自分の恥ずかしい部分を人に晒すことも前より苦ではなくなった。無理をすることのほうが、自分にも周りにも良くないことだとわかったから。
しずかちゃんになりたくてもいいじゃないか。 そんな私を認めてくれる人と仲良くしていけばいい。案外共感してくれるかもしれない。
まずは自分が認めることから、ゆっくりと。
ペンネーム:chika
しがない大学院生です。ツイッターの裏アカウント名がある時から「修羅」になっています。この前お酒を飲んだら寒気がして動悸と発汗と筋肉痛が起こり、死ぬんじゃないかと思いました。
Twitter: @shuratarou