「綺麗になったね」中学時代の男友達にばったり会った時、そう言われた。つい最近のことだ。その男子に恋愛感情は一度も持ったことがないが、心の底から嬉しくて嬉しくて、家に帰ってから1人で鏡をずっと眺めていたのは内緒の話。

私は自分の容姿に興味がなかった。あの時恋をするまでは。

中学3年生の春に、本気で好きになった人がいる。その人はイケメンでスポーツができて頭もいいパーフェクトボーイなのに、超シャイで全くといっていいほど女子と話さなかった。 そんな彼と一緒のクラスになった。しかも隣の席。ビッグチャンス到来!と話しかけるタイミングを伺っていた。

そんなある日、なんと彼の方から話しかけてくれたのだ。学校生活にはいわゆる「スクールカースト」というものがあって、私は中間層くらいだろうか。顔も別に可愛くないのにメイクやお洒落にも興味が無く、どこか垢抜けない女の子だった。そんな私に話しかけてくれるなんてなんという奇跡。その日を皮切りに、彼とはどんどん話すようになった。同じ塾だということも相まって、テストの点数を競ったり、塾の宿題を教えあったり、周りの人から付き合ってるの?と聞かれるくらいにまで仲良くなれた。

これはもう、確実に、イケる。

半分本気半分ノリで好きって言ってみた。振られた。まじかー。しんどいなー。自分の気持ちを伝えてしまった以上、もう前のような友達には戻れない。やっちまった。時期も時期で、まだまだ学校でも塾でもたくさん顔合わせるのに…。しばらく心がドン曇りで何をしてもうわの空。このままじゃ受験にも落ちてしまう。まずいなあ。なんとかしなきゃ。でもつらいなあ。

そんな私を見兼ねた彼の優しさなのか、告白してから1ヶ月後に再びの奇跡が訪れた。なんと、彼の方から前と同じように話しかけてくれたのだ。このチャンスを逃すわけにはいかない。そう思った私は、溢れそうな気持ちを抑えて、あくまでも仲のいい友達として接しようと心がけた。それが功を奏し、卒業までの彼との関係は無事に安定して最高に楽しかった。

毎日学校でも塾でも顔を合わせる度にしゃべって、笑いあって、たまに一緒に帰ることさえあった。友達以上恋人未満、とでも言えるのだろうか。今でもたまに思い返すと、本当に幸せだったなあとにやけてしまう。

顔が可愛くないから、私は選ばれなかった

だが悲しいことに幸せな時間は長くは続かなかった。卒業式の直前、衝撃的なニュースが耳に飛び込んできた。あの彼に、彼女ができたというのだ。相手は同じクラスのカースト上位の女の子。可愛くてお洒落で、私よりも全然垢抜けていた。イケメンと美人、お似合いの2人。クラスはたちまち祝福ムードに包まれた。

けれども私は釈然としなかった。彼とその彼女が2人で話しているところを1度も見たことがなかったから。後から聞いた話だと、彼は単に顔が可愛かったからその子を彼女に選んだらしい。私のことは気の合う女友達程度にしか思っていなかったとも。

結局顔かよ。そう思った。悔しかった。せっかく中身を知ってもらっても、容姿のせいで彼女候補から弾かれてしまうなんて。本当に落ち込んだ。落ち込んで落ち込んで、だんだん腹が立ってきた。そんなに可愛さを求めてくるなら、お望み通り可愛くなればいいじゃないか。そしていつか再会した時にびっくりさせてやろう。そう心に決めた。

大変身プロジェクト、始まる

高校生になり、私の大変身プロジェクトが始動した。まずメイクを始めた。メイク好きな子と友達になって、基本的なことから全て教えてもらった。チークを塗りすぎておてもやんみたいになった時もあったが、3ヶ月もするとだんだんコツが掴めてきた。毎朝試行錯誤を繰り返しながら、自分に合うメイクは何か、探し求めている瞬間がとても楽しいと思えるまでになった。

そして服装にも気を遣うようになった。最先端のファッションを取り入れようとまではしなかったが、色合いや柄を意識したり、流行しているアイテムをちょこっと取り入れてみたり、お洒落な友達がしている格好をさりげなく真似してみたり。もちろん短時間で劇的に変わることはできなかったが、少しずつ変わっていく自分にちょっぴり胸がときめいていた。

「外見が変わった」が自信に

するとなんとびっくり。人生で初めて彼氏ができた。大好きだった彼に振られてから約2年、同じクラスの男子に告白されたのだ。正直、何かのドッキリじゃないかと疑った。異性に可愛いと言われたことなんて一度も無かったから。でも真っ直ぐに好意を伝えてくれる姿を見て、自分の努力が少しだけカタチになった気がしてなんだか嬉しかった。

残念ながらその人とは長くは続かなかったが、「彼氏ができた」ことは、自分が少しずつ垢抜けることができているサインな気がして大きな自信になった。 それから何度か恋をしたが実ることはなく、最初の彼氏以降、彼氏はいない。まあそんなに恋愛は甘くないってことだと思う。いくらメイクやお洒落に気を遣っても、私は私だ。根本的な部分まで全部取っ替えることなんてできない。十人十色ということわざが言うように、私のことを可愛いと言ってくれる人もいれば、ブスだと言ってくる人もいる。 でも私は、中学生の時より自分はいい女だ!と言い切れる。

それはなぜか。外見が変わったから。そして、自分に自信が持てるようになったから。中学の時も高校の時も、クラスの男子にブスだと陰口を叩かれたことがある。ものすごく辛くて悔しかった。けれど不思議なことに、高校の時は自分にたっぷりの余裕があった。見た目をプラスに変えるために、たくさんの努力を重ねてきたという自負があったからだろう。お前なんかにブスって言われても、私のことを可愛いって思ってくれる人だっているんだよバーカ。さすがに口には出さなかったが、心の中でそう言い返せるほどの余裕が。どう?いい女でしょ?

傷から自信を得ることもできる

「人ははそう簡単に変わることなんてできない」とよく聞く。だけど、本当にそうだろうか?私を見てほしい。確かに時間はかかった。気持ちの整理もなかなかつかなかった。それは、恋愛での失敗が、他人からの見た目に対する心無い誹謗中傷が、女子の心を深く傷つけるということの証明だ。そしてその傷は簡単に癒すことなんてできない。むしろ一生残る傷ともいえる。でも、その傷は、使い方によっては自分の力に変えることができる。私はそう信じているし、おかげで傷から自信を得ることができた。

そんなの綺麗事だよ、と言う人もいるだろう。だけどもし一度しかない人生を考えた時、傷を抱えたまま生きるのと、傷を自分の力に変えて、可能性を探して生きるのと、あなたならどっちを選ぶだろう。その「可能性」に賭けてみる生き方も悪くないと思わない?

ペンネーム:いしはらゆうか 

都内の大学に通う、ありふれた一年生