私は昨シーズン、西武メットライフドームでビールの売り子をしていた。"た"という過去形通り、私はもう辞めている。私がビールの売り子を始めたのは「自分がかわいいことを客観的に証明したかったから」というごくごく単純かつ不純な理由からだった。

私は普段から「自分の顔面偏差値を客観的に出してくれないかな~」なんていう過激なことを考える人間だ。それは決してマウントを取りたいわけではない、自分の立ち位置が明確に知りたくて、それに合った行動を取りたいという思いから来ているものだ。

高校時代、スクールカースト上位のグループから「ブス」と約2年間言われ続けていた私は、大学に入ってからどういうわけか容姿を褒められることが増えた。(もちろんそれはありがたいことなのだけれど)あまりにも、評価が両極端すぎて意味がわからなくなってしまったんだ。

どうやら私はブスではないらしい

客観的に自分の容姿を判断するためには顔選のふるいにかかりに行ってみるのが早いはず。“顔選”をしている仕事ってなんだろうと考えた時に思いついたのがビールの売り子だった。みんなある程度の容姿をしているイメージがあったから。結果は採用。私はある程度の容姿はしていたらしい。ただ、ビールの売り子の中でまたランクをつけたら違ってくるとは思うのだけれど。ビールの売り子はかわいい子が多かったのでその中に私が入るのがおそれ多いと思うのと同時に私はブスではないらしいとホッとしたのを覚えている。

ビールの売り子は体力が命だ。私はがむしゃらに食らいついた。みんなが行きたがらない上の方にまでビールを売りに行ったり、延長戦の最後まで粘って売ったり…。決して売り上げは良い方ではなかったけれど、半額デーでは100杯以上を売り上げるなどしていた。

もっと売れるようになりたい。負けず嫌いな私はそう心に誓ってはいた。最初は気恥ずかしかった蛍光ピンクのユニフォームも気にいるようになった。

私が売っていたのはなんだったんだ?

だけど、今私はビールの売り子を辞めている。

授業の関係であまりシフトに入れず、売り上げが伸びにくいことや、体力的にあまりにもキツく、バイトの翌日は死んだように眠るしかないことなど、辞めることを後押しした理由はいくつもあるが、決定打になったのはネット上の掲示板だった。

「〇〇ちゃんはかわいいしπもでかいから最高、今日の一塁側の子のパンツ透けてなかった??」「今日□□の態度悪くない?え?□□ブスなのに?いいとこないじゃん」などなど……。匿名なのをいいことに掲示板上では信じられない会話が繰り広げられていた。私の名前は幸い書かれてはなかったものの、それまでの自分の経験を含めて気持ち悪くなってしまった。

お姉さんかわいいから一緒に写真を撮ってよという要望、よくわからないまま受け取った名刺、先輩が意気揚々と見せてきたチップの1万円。気に入ったはずの蛍光ピンクのユニフォームのショートパンツ…きもちわるい、キモチワルイ、気持ち悪い!!私が売っていたものはビールとおつまみ、サービスだけではなくて、私自身も売り物になっていることに気づくのに時間はかからなかった。

甘い、と言われればそこまでなのかもしれない。そういうものだ、と言われればそうなのかもしれない。でも私は耐えられなかったのだ。一歩球場に足を踏み入れた瞬間、値踏みされているような、そんな感覚。掲示板に書かれていなくても、私を性的な目で見ている人がいるかもしれない、ということが恐怖でしかなかった。もちろん、そうではなく接してくれているお客さんが大半であるとは思うけれど。

自分が消費されることを知った

根性はある方だと思う。ファミレスのバイトは1年の時から今まで2年間ずっと続けているし、習い事のピアノも10年以上続けた。だけど、耐えられなかった。
私は私の容姿を自分で評価したくて入ったはずなのに、思わぬところから思わぬ評価が飛んでくることに絶望し、私はビールの売り子を辞めたのだった。表向きには授業が忙しくなったことを理由に。

花形で憧れる子が多いビールの売り子のアルバイト。確かに楽しいこともあったしやりがいもあった。でもそんな花形の女の子は常に消費されている環境にあるという現実を知っている人はあまりいないのではないだろうか。

1シーズン私がビールの売り子を通して得たものはどうやら私はブスではないらしい程度の自信(?)だけだったけれど。多分消費されて得る自信なんてそんなに大したことはないんだ。他人に委ねられてる自信なんて相対的なものでしかないから、形はあっという間に変わってしまう。女の子が消費されることをすぐになくすことは難しいかもしれない。でもそのことに甘んじずに生きていこう。
女の子は消費なんかされなくたってかっこいいしかわいいし美しいのだから。

10月11日は国際ガールズ・デー エッセイ募集中

「女の子らしく」「女の子なんだから」……小さな頃から女性が受けてきたさまざまな社会的制約。ジェンダーに関わらず、生きやすい社会を実現していこうと、「かがみよかがみ」では、10月11日の国際ガールズ・デーにあわせ、「#5年後の女の子たちへ」をテーマとしたエッセイを募集しています。ステキなエッセイを書いてくださった方は、フェミニズムの第一人者である上野千鶴子・東大名誉教授にインタビューする企画(10月中旬、都内で開催予定)に参加することができます。この企画に参加希望の方のエッセイ締め切りは10月6日までです。