「幸せにするよ」
恋愛ドラマにありがちなこのセリフ。最終回残り15分くらいのクライマックスでやっと結ばれた王子様に言われたこの言葉をヒロインは涙を溜めて頷き、受け止める。そしてゆっくりとキス。ハッピーエンド。
そんなセリフを言われてみたいものだと、自分とヒロインを重ねて涙ぐむ少女でした。わたし。
あれから数年後、今のわたしはというと、「幸せにする」なんてたわごとだ!と、この言葉にツバをはいている。
「恋多き女」と中学でも高校でも、大学でも言われてきた私は、社会人になった今でもたくさんの恋愛をしている。「当たって砕けろ!」という恋愛も数多くあったけど、私にも甘い言葉をかけてくれる人が現れたのだ。
彼は同い年の大学時代に知り合った人で、舞台のスタッフのひとりとして出会った。仕事仲間として出会った彼だったが、ふたりで飲みにいく機会があり意気投合。ふたりで、何か作品を作ろうよ!と言うまでの仲に。
社会人になって一人暮らしを始めたため、自由になったこともあり、毎日のように連絡をとっていた。
朝起きたらおはよう。夜寝る前に2時間の電話。
お互いがお互いを必要としていて、付き合ってるのと何が違うんだろうね~結婚できちゃうよね~とまで話していた。精神的な繋がりがあって、身体を重ねなくとも分かり合えることに満足感があったし、そこには愛のようなものがあった。
「私に気持ちがないから幸せになれない」私から離れた元カレ
だが、私には無理やり関係を切った人間がいた。元カレ、その後セフレのAくん。3年間もセフレ関係を続け、相手に気持ちがないことから、私は幸せになれない!と関係を切った。
まだAくんに気持ちはあるけど、彼といたら幸せになれるかもしれない。そう思い始めていた。
そんな矢先、ついに彼は恋愛感情を抱いていることを告白してきた。というか、お互いに確かめ合うようにその言葉は生まれた。
きっと彼と結ばれる。ずっと一緒にいたせいか、答えは曖昧になったものの、私自身にはそんな気持ちが芽生えていた。
だが、この気持ちが、ソフトクリームがドロドロコーンに滴るように、溶けていく出来事があったのだ。
私の家で彼と仕事について熱く語り、迎えた朝、彼は車で帰っていったのだが、
お昼に目覚めた時、長々とLINEが入っていた。要約すると、「幸せにするよ」
という言葉だった。
起きがけにそんなセリフ!なんて幸せな野郎だ!と前の私なら思っていたはずだが、なぜかその時腑に落ちない感覚があった。
それからというものの、今まで以上に連絡してくる頻度が増えた。「いまなにしてる?」「家族に会わせたいな」「こんなところに連れて行きたい」
連絡がくるほど、真っ白なアイスがベトベト床に落ちていく。
私は考えた。
なぜ、嬉しくないんだ?
「私は彼に幸せに"される"のか?」
こんなに分かり合えている人で、結婚を考えられるほど精神的な繋がりを持てたのに。
すると、こんな答えが出た。
「私は彼に幸せに"される"のか?」
今まで、「幸せにする」なんて言葉を言われたことが無かったから気づかなかった。
私は好きな人に幸せにされるために一緒にいるのではない。
私が好きな人といて、"幸せだから"一緒にいるのだ。
私を幸せにするのは誰?
私の幸せは、私が決めてきたのだ。いつでも。どんなに冷たくしてくる元カレでも、私が幸せだから一緒にいたのだ。
だから私は「幸せにする」という言葉を受け取った時、腑に落ちなかったし、その後の私に"してあげる"精神でかけられた言葉によって、気持ちはどんどん離れていった。
世の中に、この人に幸せにしてもらえないから別れよう。と思っている人はたくさんいると思う。
でも私は思うのだ。自分を幸せにするのは自分でしかないと。
「幸せにしてあげる」の「幸せ」の定義自体、相手の価値観で判断したことだ。さらに、相手が「与えてくれた幸せ」がずっと私にとっての幸せかなんて分からない。
それにもし、自分が相手に幸せに"されたい"としたら、その人の与える幸せが無くなった時、自分は不幸になってしまう。
自分で自分を幸せにするために、一緒にいたい人といるべきなんじゃないか。その人といて幸せじゃないと判断したならいつでも離れればいい。私はそんな強さをもつべきなのだ。
結果、私は彼と恋人関係になれないことを伝えた。
彼はそのあと態度が変わり、目に見えて”私に振られた悔しさ”を出してくるので距離を置いた。精神的なつながりがあったんじゃないのか…。
やっぱり彼といても、私は私を幸せにできなかった。
彼の”幸せにする”という言葉は、私を幸せに”させている”ことで得られる満足感が欲しかったから発せられた言葉だったのかもしれない。
彼だって、私を幸せにさせようとすることで、自分を幸せにしていただけだったと思う。
そして私は、Aくんからの電話を取った。
前と状況はあまり変わらないけれど。
私はAくんといることで、私を幸せにしている。
幸せにするなんて。たわごとだ。
あなたにされなくても、私は私を幸せにできる。
ペンネーム:朝日美陽
"日常とアートを繋げたい"をテーマに激しめの人生を謳歌するZ世代女子。日本大学芸術学部演劇学科演技コース卒業後、女優、ダンサー、モデル、ライターとして活動中。卒業論文でLGBTQ +と表現について研究。老後の夢はBARのママ。
Twitter:@miharuasahi