「どうして結婚しなきゃいけないんですか?」 結婚相談所でプラン内容やどんな男性と出会えるかを説明されたあと、「質問は?」と聞かれたのでたずねた。相談所の担当者は少し笑って、「みんな考えることです」と言った。

「結婚して今すぐ幸福度が上がるとは思いません。でも40年後、絶対に幸せになってますよ」

そっか、そんなもんなのか。目の前に契約書が置かれた。サインをすれば結婚相手と出会える可能性が高くなるという。まごつく私の背中を押すように、彼は「20代女性は、30代女性と比べて入会金が7割ほど安いです」と言う。

「30代になると会費も高くなりますし、成婚率は下がります。せっかく重い腰をあげて来られたんだから入会してみてはどうでしょう。クーリングオフもできますし20代の女性の成婚率は高いので」

20代だから、安く結婚相手を探せる。お得だなあ。27歳の私はサインした。

結婚がしたい、焦っていた

相談所を出て、なんでこんなにモヤモヤしているのかわからなかった。結婚がしたい。焦っていた。友人の結婚報告が増えたというのもあるけど、街で元彼とすれ違ったのが大きい。彼の隣には女の子がいた。「好きな子が出来た」と報告されたあの子だ。息が詰まるかと思った。

通り過ぎてもなおバクバク言う心臓に、大丈夫、もう引きずってないから、と言い聞かせて歩き続けた。なのに嫌な気持ちは侵食してくる。別れて3か月。私は悶々としていたのに、彼はあっさり「好きな子」と付き合って、日曜の昼間にアイス食べながら歩いている。

ダメだった。彼に対する愛着ではない。彼には、友人には、みんなには恋人がいるのに、自分だけひとりで歩いていることが途端に虚しく思えてきた。即座に結婚相談所の無料カウンセリングを予約した。ここへ行けばこの虚無感はなくなるだろうと思って。

私=身長の高い、正社員、共働き希望の、20代の女

結果どうだろう。さらなる虚無を抱えて帰ってきた。結婚相談所は、ある程度年収や学歴などのスペックを絞り込んで「この人がいい」と選んで会うというもの。この選び方に別の元彼を思い出す。彼は私を「身長の高い、正社員、共働き希望の、20代の女」とか要素でしか見ていない気がして、いやだった。

効率を考えるとスペックで絞り込むのは当然だ。でもそれで選ばれることにも、誰かを選ぶことにも拒否感がある。「全部ひっくるめて、あなただから好き」って言いたいし、言われたい。こんなことを言うと、

「外見でも年収でもスペックでもなく『本当の自分を見て』ってお前はどんなにいい女なの?」

という声が聞こえてきそうだ。怖い。ただ、弁明すると、そもそも私は自分のことが大嫌いだ。でもやっぱり私はひとりの人間なので、散々考えた結果そんな自分と付き合っていこうと思ったし、「本当の自分を見てほしい」としか思えないのだ。

私は40年後の幸福感のため、20代女性という会費の安い時期にコスパよく婚活すべきなのかもしれない。ほしかった洋服が余裕で買える額を入会金として支払い、飲み会約5回分のお金を毎月払った方がよかったのかもしれない。

それでもたとえ、また元彼を見た時のような不安感を抱いたとしても、この先の人生、私が付き合う人は、私を「背の高い女」でも「成婚率の高い20代女」でもなく、ひとりの人間として見てほしいと思ってしまった。

結局私はベリーダンスを始めた

数日後、結婚相談所はクーリングオフした。「理由を教えてください」というメールが来たけど返していない。相談所に入らず、恋人もいない私は、ベリーダンスを始めた。前からやりたかったけど中々手が出なかったのだ。

はじめてのレッスンで、目の前の鏡にウッとなる。あまり自分を見るのは好きじゃない。でも見様見真似で体を動かして、鏡に写る自分に驚いた。へたくそなのはさておき、嫌いだった肩幅は、その広さのおかげで相対的にウエストがくびれて見えた。「身長145センチです」と言ってみたかったけど、手足が長いぶん人より大きく動けると知った。踊っている間、結婚相談所から逃げたとか恋人がいないとかどうでもよかった。私は初めて自分の体を悪くないと思った。

ペンネーム:市ヶ谷 
高めの身長で激低の自己肯定感と葛藤するOL。全部イヤになるとハシビロコウになる

Twitter:@ichigaya15