小さい頃から両親に読んではいけないと言われていた、漫画やアニメに手を出したのは、高校生の頃。女子校というある種、閉鎖的空間だったこともあるだろう。今思えば高校生くらいの女の子が、盲目的にのめり込む「そういう年頃にありがちなやつ」だったんだなあと思うけれど。まわりの女の子たちはアイドルや漫画、アニメ、歌手、小説、自分の好きなものに溺れていた。そして、例に漏れず、私は二次元に溺れていた。

私は絶滅危惧種の「夢女子」というやつだ

私は特に、男性キャラクターがたくさん出てくるアニメを好んだ。日本が舞台のものでも、海外でも、異世界でも。今思えば、男性キャラクターがいさえすれば、なんでもよかったんだろう。だって私が主人公になれる世界が増えるんだもの。アニメ界には複数のジャンルの二次創作が存在するけれど、私は原作以上に夢小説を愛していた。夢小説とは読者が物語の中のキャラクターと恋愛する形式で創作された小説のことだ。そう、私はいわゆる夢女子というやつだった。

アニメ界では近年腐女子は認められているけど、夢女子は絶滅危惧種である。よく聞く理由は現実世界の私たちがアニメの神聖な世界に介入するなんておこがましいだとか、そもそもキャラクターを恋愛対象としてみるなんてキモチワルイというものだ。

でも、別にいいじゃない。ただ、物語の世界に、人物に惹かれて、その世界の住人になりたいと思ってるだけなのに。それに、腐女子であることをカミングアウトするのは許されるのに、夢女子だということは言ったらいけないという風潮はいただけない。

小説の中なのか、現実なのかわからなくなることもあった

まあ、そんな絶滅危惧種な私の、高校生の頃の夢小説への傾倒ぶりは凄まじいものだった。毎日8時から学校があるにも関わらず、夜中の3時や5時まで夢小説を読み漁り、非現実の世界に溺れる毎日。

不健康だとか、学生は勉強しなさいだとか以前に、「異常」だった。異世界に触れる時間が長すぎて、どっちが現実かわからなくなることもあった。自分の好きな世界で好きなキャラクターと恋をする。私は二次元の住人だった。その衝動の根源はきっと承認欲求によるもの。私だって物語の世界の中のヒロインみたいに主人公と結ばれたり、いろいろな人に好かれたりしたかった。だからそんな私に夢小説はピッタリだった。私の恋愛欲求や愛されたい欲、承認欲求さえも全部満たされた。なぜなら夢小説の中で主人公の私は、物語の中で誰もに関心を持たれ、中心であったから。

そんなふうに、高校生の私はフィクションの世界で生きていた。そのせいか、現実世界の人と関わらなくなっていった。家族とも以前ほど会話しない、クラスメイトも社交辞令的な会話のみ。私は自分の中に隠し持った、たくさんの世界の中を行き来することに忙しくて、リアルな世界を生きていなかった。

世間一般的なキラキラ高校生の生活とは程遠く、私の日常は毎日モノクロで、色彩ははいつだって画面の向こう側にあった。毎日違う世界で、違うキャラクターとたくさんの恋愛。これが現実世界のことだったら、私はとんだクソ女だ。だけど、当時の私はそれが幸せだった。それでいいと思ってた。だけど、読めば読むほど味気無さを感じるようになる。使い回された展開に、絶対に結ばれる結末。所詮空想上の想像の世界での恋だもの、読み終わったあとの虚しさはだんだんと増すばかりだった。

そして、そんな生活も終わりを迎える。大学生になって、私はいわゆる大学デビューをして、高校生の時には送れなかったリアルな世界でのキラキラ生活を手に入れた。サークルに入って、新しいことをして、いろいろ恋をした。どちらかというと追いかけさせるのを楽しんでいたという感じで、今付き合っている彼氏に出会うまでは夢小説の延長を現実世界でしていたんだな、と今では思うけれど。

私を異世界恋愛依存症から解放してくれた付き合って一年になる彼も、最初はそれまでの恋愛みたいに追いかけさせて楽しんでいた。でも、彼が、目の前にいる人と関わることが何なのかを教えてくれた。彼は私のことを深く知りたかったようで、だから私は自分の本当に思っていることを聞き出された。

最初は気持ちを言葉にするのが怖かったけれど、彼はいつでも受け入れてくれた。だから、いつからか虚しさはなくなっていた。それは、ほかの誰よりも彼が私を認めてくれていることの証だと思う。彼と過ごす世界は、私が魅力を感じた世界観の中ではないけれど、三次元に存在する私に誰よりも関心をもって、認めて、そばにいてくれる気がした。満たされた世界。

きっとそれは男の子じゃなくてもよかった。女の子でも、家族でも、先生でも。自分が関心を持てて、自分にも関心を抱いてくれる。そんな存在。二次元に没頭しているときは、そんなのいらないと思っていた。二次元が好きなそこのあなたもそう思うかもしれない。だけど、そんな存在がいることも案外悪くないな、なんて。

ペンネーム:るる

大学3年生。雨の日に雨音を聞きながら読書するのが好き。好きな色はピンク。