オフの日。
大抵お出かけがしたくなり、あらかじめ連絡を取っていた相手と会うために、普段はしまってある、オシャレな服を着てうきうきと出かける。
上がっていたわたしのテンションは、初めてご飯を食べるひとーーとりわけ男性に多いのだがーーたいてい次の一言で一気に下がる。

「最後に彼氏いたのいつ?」

本当に何気ない一言。
現在彼氏がいないと公言しているわたしに対して、私生活を聞いて話の切り口を見つける上での、ほんの軽いジャブにすぎないのだと思う。
大抵「前世ですかね」と愛想笑いで返して、「まじ?そうはみえない」という答えが定型文のため、「そう見えるんですね、そっちはどうですか?」とその話題から逸らして切り抜けるのが常だ。
心にあるモヤモヤを、美味しいご飯で誤魔化して、美味しい空気を保ったまま、その場を終えることに努める。
心の中で、「テメーは俺を怒らせた」と中指たてながら。

「好きな人いる?」には「いない」

わたしは生まれてこのかた、恋人がいたことがない。それどころか、好きな人の存在をあまり意識したことがなかった。
小学生の時に修学旅行で、友達に「好きな人いないの?」と聞かれて、“みんな”いるのが当たり前だったから、クラス替えでもいつも同じクラスで、ある程度目立つような、好かれそうな当たり障りのない人の名前を答えた。 そうしたら一晩でクラスに広まっていて、冷やかされたり、告白しろよ、と野次を飛ばされたりして、凄く恥ずかしくて嫌だった記憶がある。
それ以来、「好きな人はいるか」という問いには断固として「いない」と答えるようになった。

では恋愛をしないセクシュアリティなのか、といわれるとそれはわからない。
今まで恋をしたことはないとはっきり言えるけれど、「気になる」程度の人はいた。少女漫画や恋愛ドラマは沢山みてきたし、恋愛ソングもよく聴くし、それに対して羨望や憧れはある。ただ、自分に置き換えて考えることはできないし、正直そういう心情になれるとも思えないのだ。

「好きオーラ」を向けられるのが苦手で

告白されたこともあるが、自分のことを好きだという相手の気持ちを信じることができず、首を縦に振ることはなかった。
友達は付き合えば好きになるかもよ、というタイプだったが、わたしは好きでもない相手に同じ熱量と時間を割けると思えなかった。
いわゆる「好きオーラ」的なもの、自分に向けられている目線がとても苦手だった。

恋愛感情というものを自分に当てはめるのが窮屈というか、いやだ。
「恋愛に向いてない人間」だということは確かなのでその認識で片付けてほしい。

彼氏彼女がいるのは当たり前?

「最後に彼氏いたのいつ?」という、こんな何気ない一言にテンションが下がるのは、たぶん神経質なだけだとは思う。

ただ、世の中、彼氏・彼女がいるのが当たり前なのだろうか。そしてそれを話の切り口として持ってくるのはあまりにも下世話すぎる。もっと飼ってるペットの話とか、人生であった面白い話とか、もっとこう、ないのだろうか?

恋愛することを当たり前のことと認識している人にとっては、「そんなことで悩むのか」と思うだろう。
だから笑って誤魔化す処世術が身についた。
心のどこかでもやもやが生まれて、何気ない言葉に傷ついてひとりカラオケにいって解消することは許してほしい。

いつか誰かに桃色の片想いをする日は来るのだろうか。
そしてもしその時が訪れたとしても、そっと胸にしまっておくと思う。
「最後に彼氏いたのいつ?」なんて、いつでもいいじゃないか。
プライベートな領域だ。おとといきやがれ。
そう思っても、結局愛想笑いでごまかしてしまうのは、今後どうにかしよう。

ペンネーム:タムラ

多趣味で雑食。尊敬している人はつんく♂さん、星部ショウさん、嗣永桃子さん。好きな作家さんは浅田次郎さん、堂場瞬一さん、最果タヒさん。