あなたは人間不信に陥っていたわたしが、初めて心から信頼できた相手でした。あなたは呆れてしまうほど優しくて、将来有望で、親にも「このまま結婚しなさいよ」って太鼓判を押されるくらい申し分のない彼氏でした。将来は、色々な国で暮らしたいわたしに合わせ、大学の専攻は「コンピューターサイエンス」。エンジニアになれば遠方からでも仕事ができる、一緒に何処へでもついて行くことができるって話をよくしてくれましたよね。

同時に、あなたを知れば知るほど、違和感をおぼえるようになりました。わたしが二人の関係に対する不満をボールのように投げますが、あなたからそのボールが返ってきた事はありませんでした。最初はそれでもボールを投げ続け、いつかボールが帰ってくる事を期待していましたが行方不明のボールが増えただけでした。
帰ってこないボールにもっと不満を募らせたわたしが、闇雲にありったけの力を込めてヒステリックにボールを投げつけるようになると、困った顔をして「ごめん」と謝ってきました。でも「なぜ」と聞いても返事は来ず、ましてや話し合う事はできませんでした。

ぬぐいきれなかった違和感、別れ

高校卒業後、遠距離になり、あなたが泣きながら「別れたくない」と訴える中、わたしは別れを押し切りました。募る違和感を拭いきれず、あなたと付き合う事をこれ以上続けてはいけないという使命感に駆られての決断でした。上手く説明できるほど、当時は自分の気持ちの分析ができていませんでした。

後に、わたしはその違和感の正体を最悪の形で知ることになりました。

あなたと別れて2ヶ月ほど経った頃、一人の女性からSNSでフォローリクエストが来ていていました。フォローを返すと、そこには、あなたがいました。正確には、あなたとその女性のキス写真です。

大学に入って1週間であなたは新しい彼女ができていました。もっと驚くことに、その女性から送られてきたメッセージには「わたしの彼氏をフったあんたの頭はおかしい」、「あんたに彼は勿体ない」、「どうせ浮気してたんでしょ」。一度も会った事のない他人から言われる覚えのない言葉が並べられていました。

止めてくれなかった新彼女の嫌がらせ

そのうち、わたしの携帯は知らない国際電話の着信履歴で溢れる様になりました。どうして彼女はわたしの番号を知っていたのでしょうか。あなたに数ヶ月ぶりに連絡を取り、迷惑をしていると伝えると状況は悪化しました。
彼女のSNSをブロックする、彼女が新しいアカウントを作る、レベルアップの嫌がらせが再スタート。何度、同じことを繰り返したか覚えてません。1年半に渡る嫌がらせが続き、あなたと彼女はある日急に別れました。原因は彼女の浮気でしたね。

わたし達はまた話すようになりました。わたしにフラれてボロボロだった事、わたしの代わりに彼女と付き合い始めた事を話してくれました。でも、どの理由もわたしがずっと知りたかった「なぜ彼女の嫌がらせを止めなかったか」の答えにはなりませんでした。勇気を振り絞って、1年半溜めていた怒り、惨めさ、悔しさ、悲しさを込めて「なぜ」と問いました。「伝えたけれどやめてくれなかった」、「本当に申し訳ない」という言葉を期待していたわたしに、テレビ電話越しのあなたは困った顔をしました。そうです、わたしがボールを手当たり次第に投げていた時と同じ顔です。


「何もできなかった」

「違和感」の正体は、「絶望感」でした。3年にわたり、彼を想い、彼で悩み、どうしても彼を忘れらない事へ感じた苦しみが波が海に戻る様に去っていくのを感じました。わたしはその瞬間、やっとあなたと別れる事ができたんです。

あなたと付き合う事で、「信頼できる相手」がいる事の暖かさと、その人に応えてもらえない絶望感の両方を知りました。でも、本当はずっとキャッチボールがしたかった。「何か」をして欲しかったんです。
落ちたボールを拾わない事への文句を繰り返していましたが、本当は「落ちたボールでも良いから、拾って投げ返して」という一言が怖くて言えなかった。それで本当にボールが帰って来なかったら、という恐怖が自分たちの関係を良くする以上にわたしの中でも優ってしまいました。怒りではなく、怒りの下に押しつぶされちた寂しさや悲しさをもっと素直に表現できてれば良かったなと思います。今、わたしにはキャッチボール相手が数人できました。以前よりも悲しい時は悲しい、寂しい時は寂しい、辛い時は辛いと言える様になりました。これは、わたしのエゴですが、あなたにもいつかキャッチボールができる相手を見つけて欲しいです。一度、ボールを投げ返せば、きっと失敗するリスクよりも、人と関わる事で生まれる幸せの大きさに気づけるからです。

「何かをする」元カノより。

ペンネーム:baibaihui

国籍は日本、ふるさとは西サハラ。