社会が求める結婚・出産を、自分の欲望だと勘違いして生きていた

5年後といえば、崖っぷち20代の、ギリギリ『かがみよかがみ』に投稿できるわたしは34歳になっている頃だ。5年という歳月は大人になってみるとあっという間に過ぎる。小学校生活マイナス1年である。なかなかにして長い期間のように感じるが、大人になってくると分母となる年齢がその分でかいので、そんなに長い期間には感じられなくなるのだ。

「女の子はみんないつかは花嫁さんになりたいのでしょう？」という呪い

ところで私の29歳は激動であった。いやまだ30歳になるにはあと3ヶ月程残ってはいるのだが、恐らく残りの3ヶ月にはもう激動っぽい案件はないだろう。ないと思いたい。
何のことはない、双極性障害の「割と普通の時期」が来たから就活をして、バリキャリごっこしていたら身体を壊し、それにつられて鬱期もやってきてあれよあれよという間に休職。そして繁忙期なこともあり、私が籍を置いたまま休職し続けるのも負い目となりプレッシャーとなり、あとは単純に主治医としていた医者いわく復帰とも休職継続とも診断書が出せないとのことで、この度5ヶ月ちょっとでバリキャリ生活に幕を閉じたのだ。仕事は、水も食事も取れない日もあるウエディング業界だった。

華やかな仕事である反面、やりがい搾取だろうと思う程の待遇の悪さ。土曜日の残業中、夜20時半に、先輩が「たまったもんじゃないわ」という顔で言っていた。その意味が分かる激務と社外の人との関わりの断たれた生活と、謎の自分で自分にかける「私はこのままバリキャリプランナーを続けるし、婚期も絶対逃さない！」というプレッシャーによる疲弊。

「女の子なんだから、みんないつかは花嫁さんになりたいのでしょう？」

それは呪いで、同僚は女性ばかりだったが常に「彼氏」という存在を渇望し、依存したがり、失恋すれば仕事に影響が出るため、セフレ探しに躍起になって結局傷ついて、二日酔いと戦いながら成約を取って自己肯定感を上げていた。
別に今の時代結婚しなくたって生きていけるし、事実婚の知人も居たりするしLGBTQIAの友人もいたりするし、両親の仲は激悪だし、そこまで彼氏とか結婚とかに拘らんでも、とウエディング職あるまじきことも考えていた。

「社会通念を自分の欲望と勘違いして生きる」

だから愕然としたのだ。自分自身が「女の子だからいつかは結婚しなくちゃいけなくて、だから私は結婚したいんだ。子供も産まなくちゃいけないから子供も欲しいんだ」と思っていることに。残業後帰宅して、メイクもご飯もお風呂も何も考えれずベッドに戦闘服であるパンツスーツのままダイブして微睡む中、優しい「彼氏」を欲して、「家庭」の温かさを欲して、自分に似た「子供」のふわふわしたクリームパンみたいな腕やほっぺたを触りたいと欲して、そして気がついて、愕然としたのだ。
女子大出身なのでジェンダー学も一般教養で少しかじったし、平成元年生まれとして社会的役割の他に社会通念を壊していかねばならない役割もあると自覚していた私が、社会通念に囚われ、あたかもそれを自分から望んで渇望している未来だと思ったのだ。

私は若いロッカーたちがこぞって27クラブ（27歳で他界したロックスターたちのこと）に入りたがるように、個人的には40クラブに入ってこの世とオサラバする計画で生きてきている。バリキャリでキラキラの笑顔で働きながらもそれは変わらなかったし、これは私の哲学であり美学でもあるので、あと10年程で恋人を探して結婚して妊娠して出産をして、そんでこの世にオサラバとはやはり矛盾している。私の揺るぎなかった哲学・美学さえも騙して、「社会通念を自分の欲望と勘違いして生きる」ことはするりと脳内に侵食していた。

貴女達の生きる哲学・美学が侵食されない生き方ができる未来でありますように

恐ろしかった。あんなに孤高だと大切にしていた至高の哲学・美学が簡単に脅かされたショックと、そんな自分に絶望した。そして、平成元年生まれが30歳になるような令和元年でも「女は結婚したいもの」「女は子供を産みたいもの」という他人からの眼差しと過剰な自己反応があるのだという事実。

一億総活躍社会とは何なのだろう。社会人として活躍しながら少子高齢化にストップをかけるため、結婚・出産しつつ税金・年金納めてね！…無理ゲーとはこのことである。そして少数ではあるのかもしれない、もしかしたら私が特殊なのかもしれない、でももしかしたら多いのかもしれない、上記のような呪いに苦しむ女性は少なくとも私一人いる事実。

５年後の女の子たち、日本の存続なんてとうに無理だと私は思う。貴女達の生きる哲学・美学がぬるりと気持ち悪く侵食されない生き方ができる未来であるように、私は発信したいと退職のアレコレで思い知ったよ。色々大変だけど、明日もナイスな自分で過ごしたいね。