私には今、愛する彼氏がいる。毎日が幸せで、満たされていると自信を持って言える。

それでも時々ふとした瞬間に思い出してしまう。5年前にできた人生初の彼氏のことを。友達と恋バナする時も、彼氏との惚気話と同じくらい元彼との思い出話をしている気がする。

その元彼と出会ったのは高校1年の春。同じクラスで、高校に入って初めて話した男子だった。最初の自己紹介で私と同じ漫画が好きだとわかり、勇気を出して話しかけた。笑顔で話題にのってきてくれた彼が遠目で見た時よりかっこよかったのを覚えている。
必死に猛勉強して入った第一志望校での出会い。これは運命だと信じてやまなかった。

シャイな2人 クラスのみんなには内緒で

入学から約2か月。彼とお付き合いすることになった。お互い奥手だったため告白はラインで。どちらから告白したか明確ではないが、多分私から告白したことになるのだろう。

中学まで、恋愛はキラキラした可愛い子にのみ許された特権だと思っていた。密かに憧れを抱きながらも、二次元が大好きで男子との絡みなんてほとんどなかった。そんな自分に恋人ができるなんて思ってもいなかった。私は完全に舞い上がっていた。

彼と付き合い始めたことは周りには言わなかった。というより言えなかった。二人ともシャイだったから。挨拶一つするのも、なるべく不自然にならないように心掛けた。

少し蒸し暑くなってきた頃、花火大会に二人で行った。神社の周りを歩く間も、同じ高校の制服を着た生徒がいないか周りを見渡していた。心のどこかでみんなに言って堂々と手を繋ぎたいとも思っていたが、二人だけの秘密を守っていた。そんな秘密にドキドキする毎日が、高校生活の中で一番輝いていたかもしれない。

幸せは長く続かなかった。

花火の次の日、教室へ入ると数人がニヤつきながらチラチラとこちらを見てきた。普段あまり話さない女子が駆け寄ってきて「花火一緒にいたのってK君だよね?」「やっぱり二人って付き合ってたんだ」口々に言う。
教室で彼と話そうものなら男子が絡んでくる。ちょっと前まで中学生だっただけあって、自分も周りもみんな子供だった。○○と△△が付き合った、そんな噂が大好物で、好奇心から無意識で人を容赦なく傷つける。言われた本人は全力で否定する。

七夕の翌日「別れよう」のライン

互いの奥手さが仇となり、付き合ってからわずか一か月で破局した。
七夕の短冊に「彼とずっと一緒にいられますように」と書いた翌日、彼からラインで別れようとメッセージが来た。緩く始まった最初とは対照的に、あっけないくらいはっきりとした終わりだった。

夏休みは何もする気力がなかった。勉強にも全く手がつかず、友達と遊んでも上の空で思いっきり楽しむことができなかった。一学期の試験ではそこそこいい成績を取っていたはずなのに、夏休み明けの試験では全体的に半分より下で、苦手科目に至っては学年360人中350位台にまで落ちてしまった。

特に地獄だったのが文化祭準備。彼は仲のいい女友達が多く、常に隣には誰か女の子がいた。帰りにコンビニで寄り道してアイスを食べながら歩く、彼氏とやってみたかった理想の放課後を、他の女子と実現させていた。私と話すのは躊躇ったくせに、他の女子とは楽しそうに休日に遊ぶ約束までしていた。そんな彼に恨みさえ覚えた。

「彼の誕生日に試験する学部に出願しよう」

未練を残した私はその後もアタックを続けた。何度か告白をしたが、叶う見込みはなかった。月日は流れ受験生になって、その思いは強さを増した。

彼の誕生日は2月9日だから2世紀と9世紀の世界史の内容を集中的に覚えよう。
「ア」~「ン」の五十択テストで選択肢に迷ったら彼の名前の順に答えてしまおう。
彼の誕生日に試験をする学部に出願しよう。

そんなことを言いながら勉強をしていた。

ここまでくると、恋に悩む乙女というより元カレに執着しすぎるヤバイ女だった。

誰かを好きな自分に酔っていた

なぜ貴重な高校三年間を棒に振ってまで彼に執着してしまったのか。

一度冷静になって考えてみた。

私は本当に彼が好きだったのか。彼のことを知っていたか。どんな人だったか。ちゃんと言えるか?
周りの目を気にして学校でほとんど話せなかった私たちは圧倒的にコミュニケーションが足りていなかった。お互い「コミュ障同士だね」なんて笑うだけだった。

誰かを好きになってあれこれする自分に酔いしれていた。いわゆる「恋に恋する私」が好きだっただけなのではないか。何年か経った今、ようやくそう思えるようになった。

元カレに対する未練はこれっぽっちもなく、今はもう連絡を取っていない。嫌いになったわけではないが、ちゃんと好きでいたのか、自信は持てない。
今の彼氏とはちゃんと向き合いたい。失いたくない。そう思わせてくれるのは、元カレのおかげかもしれない。

ペンネーム:渡戸 李雛

お名前は「わたりど りひな」と読みます
ちょこまかした小動物っぽいとよく言われますが、美しく空を翔く鳥に憧れてます
夜の公園が大好物
Twitter:@Watarido_Rihina