高校3年間、ずっと好きだった人がいた。共通の友人を通じて仲良くなった子だった。毎日その子のクラスに遊びに行き、休み時間の度に抱き着き、本当に可愛い大好きだと言い続け、照れる様子を見てはニヤニヤし、照れさせられれば悔しがった。彼女も私のことを可愛がってくれていた。
何もかもが好きだった。173㎝の背も、大きな瞳も、抱き着けばすっぽり私を覆う腕も、可愛いと言うと照れる顔も、くっついてもそのまま放っておいてくれるところも、私にあんまり興味がなさそうなところも、秘密主義なところも、全部、ぜんぶ、本当に全部大好きだった。
スポーツ大会のメッセージがほしくて
1回だけ、その子がデレてくれたことがある。
私の高校では、秋にスポーツ大会が行われる。高校3年生、最後の大会では、お互いの体操服にメッセージを書きあう。親友たち、後輩たち、部活の人たち、とにかく私が好きだ!と思う人全員に声を掛けて、メッセージを書いてもらった。それなのに私はどうしてもその子のところに行けなくて、一人分のスペースだけ空けて、どうしようどうしようと教室をウロウロしていた。
自分から行かないと会えないのはわかっていた。だって彼女は1回も私の教室に来てくれたこと、なかったから。ほとんど泣きそうになりながら廊下に出たら、「あれ、ほくちゃん?」と聞きなれた声が上の方から降って来た。
「…さ、最後の思い出に、〇〇ちゃんにここ、書いてほしい…」
顔も見れずにペンと体操服だけ渡したら、いいよ、じゃあ教室入っていい?と言って私の席まで来てくれて、たった一言
「受験終ったらデートしよ」
と書いてくれた。じゃあ次試合あるから、と背を向けた彼女に
「する!!!!!!!!」
と叫んだ声は届いたのか。叫んだし届いた気がする。
それからの私は受験ってなんだっけみたいなレベルで毎日のように妄想していた。どこに行こうか。待ち合わせの時どんな感じで来るかな。私服どんな感じなんだろう。可愛い系かな、かっこいい系かな。どっちも似合いそうだな。なんて。
そこから高校は自由登校になって、会える頻度も減って、メールなんか全然返事がこなくて。でもデートの約束したもん、受験終ったら会えるんだから。彼女のことを考えるだけで勉強が進んで、今すぐテスト来い!みたいな気分だった。
受験が終った3月中旬、謝恩会で久しぶりに顔を合わせた。
元気だったー?さむいねー、なんて下らない話をしながら、私の頭の中はデートのことでいっぱいだった。彼女のことなど本当は何も考えていなかったのだ。
「デートいつする?」と聞いたら「デート?」と少し怪訝な顔をした彼女はそのまま言い放った。
「ごめん、悪いけど、卒業した後高校の人に会うつもりないから」
そう直接的な表現だったのかは覚えていないけれど、そんな意味の言葉が私に降りかかって、3秒くらい思考停止した。えっと、え?なんで?なんて?
「え、じゃあ卒業式で最後ってこと…?」と聞いて、聞かなきゃよかったと後悔した。うんまぁそうかな、とそのまま話す彼女が、本当に何を考えているのかわからなかった。
彼女は浪人が決まったところだったのだ。今振り返れば、無神経だったのは私だった。
スマホに残った1枚だけのツーショット
卒業式の日。声なんかかけてやるものかと意地を張っていたのだけれど、姿を見た瞬間にそんな意地は溶けてしまって、最後の思い出に写真を一緒に撮りたいとお願いした。
高校時代、一度も撮らせてくれなかった写真。私のスマホのフォルダには未だに、マスクをして手で顔を隠す彼女のブレた写真がいっぱい残っている。あっさりといいよ、と言われた瞬間に、「あ、本当に最後なんだ」とストンと胸に落ちた気がした。本当に最後なんだ。もうこの人、私と会うつもりないんだ。
返事がこないからと新着メール問い合わせを30分くらいし続ける日々も、3回に一回くらい来る返信を保護する日々も、もう来ないんだ。私の人生に彼女はもう現れないんだ。そう思ったら悔しくて、鼻の奥が熱くなってどうしようもなくなった。唯一手元に残るツーショットの私はすごくすごく変な顔をしている。
「これは恋だった」「これは恋じゃなかった」相手が女の子だからなのか、私の好きが随分一方的だったからなのか、私の中で彼女の存在は未だに分類されていない。久しぶりに思い出したこの出来事を、私はまだ、恋のフォルダにも、特別な友情のフォルダにも、整理できないでいる。そしてだからこそ、3年たった今も思い出す、特別で大切な存在なのだ。
ペンネーム:HOKU
映画が好き。ジュネーヴに住んでいました。フェミニズム・ジェンダー。生きづらさに寄り添いたい。就活にどこか馴染めない。悩めるいち人間として「誰か」に文章を通して伝えていきたい。
Twitter : @hiver_snow10