恋愛というのは全然自分の思い通りにならない。その中でも禁断の恋、というジャンルは (人を好きになる事に禁断もクソもあるかよと私は思うが) とりわけタチが悪い。らしい、世論的に。それなのに私はまんまとこれにハマってしまった。血と涙と下り物に濡れた、18歳の女の闘争劇である。

父親と言っても違和感のないくらいの年齢の男性

私を骨抜きにした色男は、私の父親ですと言っても違和感のないくらいの年齢の男性だった。その上、高級な外車を乗り回すタイプでは無く、チャイルドシート付きのファミリーカーを乗り回すタイプの色男だった。

言い訳のように聞こえるが、最初は禁断の恋なんて興味が無かった。そもそも私は歳上の男性に全く興味が無かった。けれどそんな少女をメロメロにするくらいの魅力を、その中年男性は持ち合わせていたのだ。顔も身体も匂いも声も何もかもが色っぽいのに、実は舌っ足らず。仕事が出来て近寄り難い雰囲気なのに、実は整理整頓が苦手で機械音痴。好きな本や音楽の話をしてくる時はいつも子供のようにキラキラしていて、それを私が褒めると照れながらぽやぽやと笑った。誰よりも完璧に見えるのに、誰よりも不完璧な彼の中身が愛おしかった。恋愛漫画にあるような典型的なギャップ萌えというやつで、気が付けば私の脳の大部分が彼に占領されていた。

色男の"キープ"になった

一方的な片思いのまま終了となればよかったものの、私の思い通りにはいかなかった。彼の中で私の存在が徐々に大きくなっていったようで、気付けば「君は綺麗だ」「君の声が好きだ」と、奥様に聞かれたらギリギリアウトの発言をするようになった。身体の接触は無かったけれど、傍から見たら明らかに近過ぎる距離感。夜遅くまでメールを送りあったりもした。

家族を手放す気は全くないけれど、自分を好いてくれる女子高生との甘くて熱い日々も捨てがたい。私は色男にとっての、都合のいい”キープ”になった。

私は奉仕の心なんかも芽生えたりして、でも冷静に考えたら奉仕の権利すらないんだよなとか考えたりして、欲求と現実の間で苦しくなっていった。

「彼とセックスをして既成事実を作りたいな」とか「奥様が別の男性と浮気をして離婚しないかな」とか、考えてはいけない事が頭の中を駆け巡り始め、そんなことを考えてしまう自分自身が大嫌いになった。彼にとっての私は”キープ”でも、私にとっての彼は”大本命”だった。

「愛人」にも「妻」にも「友人」のどれにも属せない不安定なポジションで禁断の恋に溺れ続けた私は、最終的にストレスで心身共にボロボロ、日常生活もままならなくなり、彼と距離を置く事を決意した。

自分の心と未来を殺すな

距離を置いたら、彼を忘れられると思ったのに。身体や心の調子はいくらか良くなったが、この恋はまだ終わりを迎えていない。彼との縁が完全に切れることもなく、かといってこれ以上の関係に発展するはずもなく、中途半端なままの恋は終わる気配すらない。彼を一生好きなまま、他の人とセックスをせず結婚せずに私は女としての幸せな未来を棒に捨てて生きていくのかもしれない、と思う。

恋には始まりがあれば必ず終わりがあるというが、禁断の恋にはそもそも始まりすらないのだから終わりもない。私は私の選択を悔やんだことはないけれど、もし周囲に禁断の恋に溺れそうな人がいたら全力で止めてこう言う。禁断の恋で溺死するな。自分の心と未来を殺してしまった私のようになるな、と。