「化粧をしてる男性って気持ち悪いですか?」
私は美容業という仕事柄、男性に化粧をする機会があるのだがそんな風に問われることがよくあった。「私個人としては勿論美容が好きなので、綺麗にしたいと思っている人がいたらそれだけで嬉しいです」と答えていた。それは紛れもなく私の本心である。
女性は化粧を"しなくてはいけない?"
男性は化粧を"してはいけない?"
女性が化粧をするかしないかは個人の自由。しかし「化粧は女性のマナーだ」という認識が社会的には強いように感じる。
そして、女性だから男性だからではなく「個人」で化粧をするかしないかを選択できる世の中になっていってほしい。私は女性として綺麗になりたい訳ではなく人として綺麗になりたい。なりたい自分像に近づく為に今日も化粧をするのだ。その気持ちは誰にも馬鹿にすることはできない。
女性が女性を馬鹿にするのは…
しかし綺麗になりたい女性を女性が馬鹿にするようなシーンを目にすることもある。
「デパートでコスメなんか買って女子力高いね(笑)」
「そのフリフリの服女の子っぽいね(笑)」
「ネイルなんてしても誰も見てなくない?(笑)」
こんな会話をどこかで聞くたび、目の前のあなたにはまず関係ないよと思う。女だから綺麗に〜という考えも、言葉のナイフのように使って人を傷つけなければ考え自体は持っていたって自由だし。良いじゃない高いコスメ、パッケージが凝っていて美しいし。ジェルネイルをしてると爪が弱い人にとっては爪の強化にもなるし良いじゃない。意外とみんなが思ってる可愛い女っぽいことって、実用性が隠れていたりするんですよ。なんて思う。
誰かを攻撃したい気持ちではなく、本当にそう思ってついそんな言葉を言う人もいる。
私がそんな殺傷力高めな女の人に遭遇した場面として、昔働いていたネイルサロンの話がある。私の5歳ほど歳上の先輩はいわゆるギャルのような見た目だった。髪はドストレートの超ロングで、顔はぱっちりとした大きい目にカラコンと、ばさばさのマツエク。そしてネイリストである彼女の爪は4センチほどの長さがあった。お客さまから「そんな爪で料理や掃除はできるの?(笑)」「綺麗だけど…家事はしないんでしょ?」と質問されていることもあった。
私は夏になると海の中に日が入ったような透明感のあるデザインだったり、冬になると雪が少しずつ積もっていくようなグラデーションのデザインになる彼女の爪を美しいと思っていた。確かに生活上不便そうではあるけれど。彼女はいつも楽しそうに料理や家事の話をしていたから、尚更胸が痛んだ。
こういった「女が女を殺す瞬間」を目にすることがある。喩えとしては酷い言いようだなと思うけど、このような攻撃をする人を意地が悪いと一蹴することはできない。攻撃する彼女らの中には「世間が作り出している女性像」に対して反発している人もいるのだと思えるからだ。
社会的につくられた「女らしさ」というものを強要され、疲れ果ててしまった彼女らは次にその「女らしさ」を持つ女性を攻撃することで安心を得ているのかもしれない。もちろん全てが社会の風潮の問題ではない。個人の性格の問題も大きくあるだろうが、社会が持つ責任も大きくあるだろうなと思う。
化粧が苦手な人はしなくてOK
例えば私に関わりの深い「化粧」と言うものだけで言えば、苦手な人は化粧をしなくてもいいような世の中になってほしいと思う。個人としては美容を多くの人に好きになってもらいたいけれど、押し付けることも強要することもしたくない。
化粧に正解はない。そして「女らしさ」にも「男らしさ」にも正解はない。男女問わずに誰だって化粧をするという選択肢を持っていい。例えば飛び散るようなギラギラとしたラメでアイメイクをしてもいい、唇に不健康そうな青いリップを塗ってもいいし、イエローベースだろうがブルーベースだろうが自分の好きな色のファンデーションを塗ってもいいように、誰がどんな化粧をしても良いのだ。
そして、誰が化粧をしなくたって良いのだ。