「ブス!」
高校1年生の時、同級生の男子から言われた言葉だ。
放課後、教室に残って数学の勉強をしていたら、突然そんなことを言われた。
「なあ、あの席にいる〇〇ちゃんとお前、どっちがブスだと思う?」
無言で教科書を読んでいると、それを遮るかのようにそう聞かれた。
何と答えれば良いのだろう。非常に戸惑ったが、その素振りは見せなかった。
混乱している気持ちを露にしたら、相手の思う壺のような気がして。

ブスってなんだろう

ところで、ブスっていったい何だろう?ぼんやりそんなことを考えた。
目が大きくて、鼻が高くて、唇が小さい人のことを「美人」と同級生たちは言うけれど、
それは誰かが勝手に決めつけたもので、ハッキリとした定義はない。
その男子が馬鹿にして笑った女の子は、県大会で優勝するほど剣道が上手で、だけどそれを自慢しない謙虚さがあって…すごく美しい女性だと、心の中で思っていた。
それに比べて私は、文芸部に入ったものの毎日遊んでばかりで、そのくせ他の人が文芸で表彰されると、「何であの子が」と妬む。
今日は、数学の授業をサボっていたツケが回ってきて、ひとり教科書と睨めっこをしている。だから、本当のブスは私だ。そう思った。

「俺はどっちも美人だと思うけど」

「俺は、どっちも美人だと思うけど」

不意に、後ろからそんな大きな声が聞こえてきた。
振り向くと、女子の間で人気の高い同じクラスの男子が立っていた。

「そんな質問をする、お前のほうがブスなんじゃねえの?」

ハッキリそう言う彼の姿に、驚くとともに溢れんばかりの嬉しい気持ちが
込み上げてきた。これまで憧れ、遠くから見つめているだけだった彼が、
ぐっと近くに来てくれたような気がした。

「あ、ありがとう」

自然と感謝の気持ちが口から出た。
彼が来なかったら、きっと更にひどいことを言われていたかもしれない。

「思ったことを言っただけだよ。そんじゃ、俺部活に行くからまたね」

爽やかな笑みを浮かべ、彼はそう言った。
謙虚に答えるその姿を見て、ますます好感度が上がった。

その日から、部活動も数学の勉強も、これまで以上に力を注ぐようになった。
放課後になると文芸部の部室に猛ダッシュして、創作活動に打ち込む。
難しくて理解できない数学の授業も、目を大きく開けて授業を聞くようにした。
すると、少しずつだが文章で表彰されるようになり、数学の成績が上がっていった。

あれから10年。
私は今も「どっちも美人だと思うけど」という彼の言葉を忘れることなく日々を過ごしている。あの子は美人だ、あの子はブスだと誰かが口にするのを聞くたびに、顔のつくりだけで決めつけて良いのだろうかという疑問が頭に浮かぶ。

美人の定義ってなんだろう?

自分と相手を比べない、相手を傷つけない。
そんな美しい心を持っている人が、一番の美人ではないかと私は考える。
見た目ばかりが重視される今の世の中、周りから言われて信じ込んでいる
「美人の定義」をいま一度、見つめ直して欲しい。
心の美しさを重視する世の中になることで、私のように容姿に悩む人や
見た目の美しさばかりを要求されて苦しんでいる多くの女性たちを救うことができる。
過去の自身の体験から、少しずつ世の中が変わっていくことを願っている。