地方出身、都内一人暮らし女子。
その条件が就職活動で不利になるなんて思ってもみなかった。

営業職を受けて面接に行けば、「この業界は古い体質の企業が多いから、女の子で営業は大変だよ。客先の堅物なおじさんに舐められるし」と言われる。
そういう意地悪な質問にもめげない精神力があるか、うまい切り返しができるかを見ていた面もあるとは思うけれど、未だに仕事の世界では男社会が根強い。

かと思えば、一般職の面接では「今一人暮らしなの? 親御さんから実家に帰ってこいとか言われない?」と訊かれる。
某専門商社の説明会では、「うちは一般職に家賃補助が出せないので、一人暮らしの方にはエントリーをご遠慮いただいています」と人事担当者にはっきりと言われた。こんな会社こっちから願い下げだ! と怒り狂ったものだ。
一人暮らしだと一般職の選考では不利、と噂には聞いていたけれど、まさかここまでとは思わなかった。あまり意味がないとは思いつつも、初見で地方出身なのがばれないように、履歴書の住所欄にはマンション名を省いて賃貸だとわからないように書くという小細工をしていた(例えば50番地3丁目鏡マンション104号室だったら、50-3-104とか)。

もっとひどいところだと、「今お付き合いしてる男性はいるの?」なんて訊かれたこともある。
その場では咄嗟にいませんと嘘をついたけれど、意図がわからなくて面接が終わったあとにネットで検索して調べた。入社2~3年で結婚して早々に辞められるのを危惧しての質問ではないか、という説が有力そうだった。
セクハラもいいところだ。大体就職活動をしている時点で彼氏がいようがいまいが、その先の結婚に結びつくかどうかなんて、ましてや結婚と同時に退職するかどうかなんてわかりやしないのに。

生まれ育った環境が違うだけで、どうしてこんな差別を受けるのだろう

そんな理不尽な仕打ちを受けては、「じゃあわたしはどこの企業のどんな職種だったら受け入れられるんだ」と絶望的な気分になった。
同時にこれまでの様々な思い出が蘇る。予備校の自習室や深夜のファーストフード店で寝る間も惜しんで必死に勉強した。辛かった受験を乗り越えて、やっと憧れだった東京の大学に入った。
最初の1年間で遊びすぎて、これではいけないと思い直して真面目に授業に出て、自分で言うのもなんだけれど成績は良かった。飲食店のバイトも頑張っていたし、趣味も楽しんで、「ちゃんとした」学生をやれていると思っていたのに。

首都圏の実家から通っている子が、わたしの中で憧れだった商社の一般職の選考に通っていくのが妬ましかった。生まれ育った環境が違うだけで、どうしてこんな差別を受けなければいけないんだろう。わたしはただ、大好きな東京で平凡に楽しく暮らしたいだけなのに。

一通の内定通知で心の平穏を取り戻した

内定の有無で周りの明暗もいよいよくっきりし始めた6月、2度目の最終面接でもやっぱり出身に関する質問が飛んできた。
兄弟姉妹はいる? 妹さんは実家に住んでるの? 帰ってこいって言われない?
それだけで、あぁまたダメかもしれないと思ってしまう自分がいた。手応えは半々だった。面接を終えて2、3日経っても電話もメールもなく、無気力状態で家に引き籠もっていた。
なんとなしにポストを開けると、その企業から1通の封筒が届いていた。またお祈りか、と覚悟しながら中身を見る。内定通知だった。
その場で泣き崩れた。なんで電話じゃなくて書面なんだよ。しかも普通郵便かよ。すぐ母親に電話して、もう二度と就活なんてやりたくない、と泣きながら笑った。他のエントリーも選考の予定も全てキャンセルして、わたしは久しぶりに心の平穏を取り戻した。

それから3年後、転職活動をすることになるのだけれど、新卒のとき不利になった出身地も性別も選考には全く影響することなく、あの苦労は一体なんだったんだろうと拍子抜けしてしまうのはまた別の話。