恋人が撮ってくれる自分の写真が好きだ。

小さい頃から自分の顔が好きではなかった。姉のそれより小さくて離れた目。低くて丸い鼻と、笑っても高くならない頬。涙袋なんてないし、少しゆっくり眠っただけで腫れぼったくなってしまうまぶたは分厚すぎる。周りから時期だから仕方がないよ、と言われた荒れた肌からは、ニキビは一向になくなってくれなかった。

初めての恋人はプロのカメラマン

コンプレックスは数えたらきりがないし、思い切り歯を見せて笑った写真はほとんど見つからない。人とはあまり目を合わせないし、笑う時はいつも手で口を隠している。
そんな私の初めての恋人は、プロのカメラマンだ。

初めて出会ってから仲良くなるまで、時間はかからなかった。静かで眺めのいいところに行って、カメラを教えてもらう。撮った風景の写真を見ながら、お互いのことを少しずつ語りだす。ゆったり流れる時間が心地よくて、気がつけば二人で過ごす時間が増えていった。

親しくなるのにずいぶんカメラには助けられたが、私を少し困らせるのも、またカメラの存在だった。自分に自信のない私が被写体になるなんて、家族写真のほかにはなかったからだ。
待ち合わせてデートをする時も、2人で小さなお散歩に出る時も、彼はいつでもカメラをさげている。なんてことない公園だろうが、ただの道路だろうが、いい光が差してくるとレンズが私の方を向くことになる。
はじめはとにかく恥ずかしくて、自分を卑下して逃げ回っていたけれど、ファインダーをのぞく目の真剣さに気がつき、観念して精一杯の照れ笑いで応えるようになった。

写真を現像したんだよ、嬉しそうに教えてくれる恋人の様子に、不安を覚える。この顔がくっきりした像になって紙に焼きついたのか。引きつったりしていないかな。ニキビの一つひとつも写っているのかな。遠景だといいな。なんて負の感情をループさせながら薄目で写真を表に返す。

するとそこに写っていたのは、ただただ幸せそうな女の子だった。
自分のことを”女の子”だなんて思ったこともなかったけれど、そこには大好きな人を前に頬を緩める、ごく普通の女の子が写っていた。
ニキビが写っているのかも、鼻が低いかどうかも、もうどうでも良くなっていた。

「心から幸せなとき、私はこんな顔をするんだな」

私は心から幸せな時、こんな顔をするんだな、なんてやけに他人事みたいに思いながらも、写真を手にした私は少し泣きそうだった。飾らないそのままでいいんだと、言ってもらえたような気がした。自分を縛っていたコンプレックスが溶けていく。素直に、前向きな気持ちで綺麗になりたいと思えている私がいる。

It’s photo timeだな。彼が不意にそういってカメラを持ち上げる時、今日も私はとびきりの笑顔で応える。もう口元を隠す必要もない。
そして、こっそりカメラの向こうにいる彼に語りかける。いつもありがとう。