街中がハロウィンで活気づく10月31日、わたしは断腸の思いで貰っていた内々定を蹴って、そのまま黙々とハムレットを読み始めた。さて、どうする、わたしの将来。シェイクスピアの名言たちはわたしを慰めてはくれても、代わりの就職先を斡旋してはくれないのだ。退路を断つには遅すぎたような、そんな気がしないでもない。

出版社での面接、ことごとく不採用

春先には、出版社に片っ端からエントリーした。本が好きで、本をつくりたい。ありったけの修飾語で飾り付けた志望動機も、根底にあるのはこんな陳腐な理由だけ。
この業界はビジネス的な興味で殴り込むよりも、結局は出版物に対してどれだけ愛を注げるのかや、トレンドを作り出すぐらいの気概が大事なんじゃないか。そんな甘っちょろい幻想を抱いて、たかだか2カ月で全滅した。

エントリーシートは意外と通った。筆記試験も半分以上は通過した。でも面接でことごとく不採用通知が溜まっていった。一次面接の通過率は、たぶんプロ野球の投手打率ばりに低い。1割いったら儲けもんの、そういうレベルだ。
結局は自己分析も業界研究も全部甘かった。今までの2カ月は全て無駄だった気がして、わたしは焦るだけ焦った。

とりあえず夏までには何か内定が欲しくて、それで勇み足に内定を取ったのが例の企業だ。不動産の営業職。業界内でもベンチャーなその会社は、正直調べても内情は普通の不動産会社と同じに思える。稼ぎもいいし、どうせ転職前提だ。いいじゃないの。
わたしは納得したようでいて、それでも内定承諾書の提出をぎりぎりまで引き延ばしてもらっていた。あれだけ執着していた本の世界と、まるっきり離れてしまうのはなんだか気が引けた。

本への未練は増すばかりだった

期限ぎりぎりまで悩んで悩んで、わたしは馬鹿みたいに本を読んだ。清く正しくまっすぐに生きる登場人物を探すだけ探し、彼らならどっちを選ぶだろうと考えた。ハムレットでいう、かの有名な生きるべきか死ぬべきかの問いの答えを、わたしは卑怯にも本の中に求めようとしたのだ。7月末に内々定を貰って、100冊近くの小説を買って読む。バイト代は8割がた書籍代に消えた。

本を読み漁ってみてわかったのは、本への未練は増すばかりだということだ。

断りの電話を受けた人事部の人は淡々としていて、怒って詰りもしなかったし、落胆した風でもなかった。社会はわたしが思うほど恐ろしい場所ではない。ただ、わたしが思うよりわたしに興味がないだけだ。

内定なし、再び就活戦戦に放り出された

通話を切って、考える。「これから、どうしようかな」。でも結局ソファ代わりのベッドから立ち上がると、本棚へ向かった。「まぁ、本でも読むか」。手に取ったのはシェイクスピアの四大悲劇の1つ、ハムレットだ。

わたしの取った選択は、果たしてTo beだったのか、Not to beだったのか。それさえもわからないまま、わたしは内定なし、身一つで就活戦線に再び放り出された。
身から出た錆、自業自得だとしても、これを悲劇といわずしてなんというのか。

でもわたしは現状をそれほど悲観してもいない。やりたいことはわかっているのだし、大失敗も経験したんだから、あとはもう、希求することをやり通すしかない。どんなに時間をかけてでも、遠回りをしてでも、わたしは夢に妥協はできないみたいだ。

本を読んだらまた就活をはじめようと思う。もう出版社の募集はないけれど、まずはなるべく本に関わりの深い業界を探して。
大学4年、11月。わたしの就職活動は、To be continuedってとこだ。