マンスプレイニング。この言葉を知ったのは、つい最近だ。女性(特に若い女の子)に対して、上から目線のアドバイスをしたり知識をひけらかす事で、男性が優位に立とうとする行為を指すらしい。

思い返してみると、私もこのマンスプレイニングをされるのは一度や二度ではない。多くは軽いものなので、「あー、始まりましたね。ウンチクお疲れ様っす」と思いながら「そーなんですねー」とうなずいてやり過ごしてきた。

しかし3年以上前、私が派遣社員をしていた時に初めて受けたマンスプレイニングは、私の心を壊すことに大きく加担した。

仕事のイロハは一向に教えてもらえる気配のない面談

きっかけは突然の派遣先部署の変更だった。

知らせを受けた喫茶店には、変更先の部署の上司と、とあるベテランの正社員A氏がいた。彼とは忘年会で一度顔を合わせた程度なので、なぜいるのかと思いながらも話を聞いた。

そこでA氏が、「社会人の常識を教える」との名目で、毎月会社近くのその喫茶店で私と面談をすることになった。派遣先は変わっても、A氏は直属の上司でもなければ、部署も違う。なので、なぜ面談をするかはわからなかったけど、「仕事のこと教えてもらえるならいいか」と私は承諾した。

終業後、社外で行われるのでもちろん無給。その中身は、想像していたものとまるで違った。誰でも知っているようなパソコンの知識を学ぶだけでいいと言われ、プログラミングの勉強を始めたら、嫌な顔をされた。「〇〇さん(私)には社会勉強が必要だ」と言い、バイトや派遣しか経験のない私のこれまでの職歴をやんわり責められたこともあった。

喫茶店のソファの座り心地が良いせいか、説教はいつも長引く。ニンマリとした顔で、「仕事とは食べていくためにするもの」という考え方の元「何か大きいもの買って借金しろ」とまで言われた。肝心の仕事のイロハは一向に教えてもらえる気配はなかった。

最初はありがたく拝聴していた。パワハラではないし、私のためにわざわざ時間を割いてくださっているのだ。後輩として少々長い説教も受けなければいけないと、自分にいいきかせて我慢していた。

人間は人から「ダメだダメだ」と言われると本当にダメになってしまう

ただ、脳は騙せても心と体は正直に拒絶した。ひどく情緒不安定になってきて、突然叫んでは両親に八つ当たりするようになっていた。自分を仕事のできないダメ人間だ、クズだと本気で思い、塞ぎ込んだ。逆流性食道炎になり薬が手放せなくなった。人間は人から「ダメだダメだ」と言われると本当にダメになってしまうものなのだ。

同時期に職場でも仕事を覚えられず、男性の先輩社員からバカにされていて、どん詰まりになっていた。まさかのマンスプレイニングダブルパンチである。

このままでは死んでしまうかと思うほどだったので、派遣先を変更できないかと直属の上司Bに尋ねてみた。良い方向に行けると良いなと思ったが、これが運の尽きだった。AとBに呼び出され、「覚悟がない」「目標を持ってない」などと言われ、退職を迫られた。

A氏は若い女の子に威張りたいだけの空っぽオヤジだった

最後は「俺だってマンションをローンで買ったから、トイレでゲーゲー吐きながら会社いってんだよ!」とA氏の八つ当たりを受けて会社を辞めた。今までのニヤついた上から目線が一変、本性丸出しの顔を見て、私は悟ったのだ。

こいつ、若い女の子に威張りたいだけの空っぽなオヤジじゃねえかと。

今なら、どんな時でも私はダメじゃないと信じられる

私はダメじゃない。
職を失い、身も心もボロボロになってようやくわかった。最初に「おかしい」と思った時に辞めるべきだったとひどく後悔した。唯一の不幸中の幸いは、A氏の言いなりになって大きな借金をしなかったことくらい。

仕事もうまくいってなかった当時の私は、まるで余裕をなくしていた。A氏に疑問を持ちつつ、上下関係に縛られて拒否できない心理状態に追い込まれた。

最近では、わかりやすいパワハラ、セクハラは問題になりやすい。けれども、ギリギリセーフの言動で相手の自尊心を壊し、自分の優位を保つやり方は、された側が不快に感じても、嫌だと発信しづらい。非常に上手い手だと思う。

あれから3年。心療内科にも通うようになってなんとか心の平安を取り戻した。今なら、どんな時でも私はダメじゃないと信じられる。A氏のようなオヤジにノーを示せるし、聞き流せる余裕も持てる。

どんな立場にいようが、誰かに否定されても真に受けてはいけない。私は自分を壊してやっと気づけた。