「わー、あいつハゲてる。気持ち悪」
中学1年生の時です。
集団行動が苦手な私は、ストレスで自分の毛を抜いてしまう「抜毛症」にかかりました。毎日のように髪の毛を引っこ抜き、頭の半分の髪の毛がなくなりました。
(女の子なのに、ハゲになっちゃう・・・恥ずかしいからやめなきゃ)
そう思えば思うほど、そのことがストレスになり、どんどん髪の毛を抜くようになりました。初めはクシで髪の毛を伸ばしてごまかしていましたが、ごまかすのも限界になり、学校に行くと、周りからアイツはハゲだと笑われるようになりました。
美容院に行って、カットモデルになる約束をした
「美容院に行って、かゆみ止めの薬剤をもらってきたら」
母親にそう言われ、近所の美容院へ連れて行かれました。
そこで私は、一人の美容師と出会いました。
「僕、美容師のヘアコンテストで優勝するのが夢なんです」
まだ20代前半くらいの、若い男の子でした。
こんな若い男の子に、半分ハゲている頭を見せるのは恥ずかしいな。
そんな私の気持ちは、真っ直ぐな瞳で夢を語る彼の熱い想いにかき消されました。
「来てくれるお客さんみんなが、嬉しい、ありがとうと言ってくれるお店にする。
そのためには、僕がコンテストで優勝しないと」
夢かあ。私には、夢なんてないなあ。
もしあったら、お兄さんみたいに明るく前向きな人生が過ごせたかな?
自分と美容師さんを比べ、ひっそりと落ち込みました。
「・・・ひとつ、お願いがあるんだけど、ここの美容院のカットモデルになって
くれないかな?」
「カットモデル、ですか?」
「きみの長くて艶のある綺麗な髪は、カットモデルをするのにピッタリだ」
わたし、長くて綺麗な髪なんて生えていないのに。馬鹿にしてるの?と口に出しそうになりましたが、あまりに真剣な表情に、本気で言っているのだと気付きました。
「・・・あと3ケ月くらいしたら、髪の毛は肩まで伸びると思います。
その時は、私の髪の毛を切ってください」
「そっか。じゃあ、3ケ月後にまたウチの美容院に来てね」
カットモデルになる約束をした私は、その日から髪の毛を抜かなくなりました。学校で男子から意地悪なことを言われた時、苦手な体育の授業を受けている時―。ストレスで、髪の毛を抜きそうになることもありました。しかし、そんな時は美容師さんとの約束を思い出して、髪の毛を抜くのをグッと堪えました。2~3ケ月経った頃、私の頭にたくさんの髪の毛が生え、徐々に元の髪型に戻りました。。
伸びた髪の毛は、可愛らしいショートカットになった
「約束通り、髪の毛を伸ばしました。
今日はカットモデル、お願いします」
「だいぶ髪の毛伸びましたね。それでは、約束通り切らせてもらいます」
そして、可愛らしいショートカットにしてもらいました。
自分の髪の毛が伸びたこと、美容師さんに喜んでもらえたこと。
その2つがとても嬉しくて、るんるんとスキップをして自宅に帰りました。
「おかげさまで、コンテストに優勝することができました!」
その1ケ月程、美容師さんから一本の電話がかかってきました。
美容師さんの夢を叶えることができて良かった。そう喜ぶと同時に、
夢を叶えるための手助けができたことを、心より嬉しく思いました。
誰かのために何かをすることで、大きな困難を克服することもできるのだと
気付かされました。現在も抜毛症の症状は続いていますが、当時の出来事を思い出すと、
少しだけ症状がおさまります。同じように、何らかの困難を抱え、苦しんでいるすべての方に「誰かのために生きることの素晴らしさ」を伝えていきたいです。