私は、うっかりしてよく色んなものを忘れてしまう。
医者によると、この症状は「不注意」というらしい。
その症状と付き合って25年。

先日、名古屋から東京に旅行に行った際も、うっかりやらかしてしまった。
東京駅から名古屋駅に向かう高速バスに乗ろうとしたら、「大人料金じゃなくて子供料金で予約してるよ」と、運転手さんに告げられた。
発車時刻まであと10分。窓口に行ったら、乗車券がないと大人料金に変更できませんと言われた。乗車券を家に忘れてしまった私は、変更ができず、バスに乗ることができなかった。せっかく予約したのに!まあ、仕方ない。それじゃ新幹線で名古屋に向かうとするか。気を取り直し、近くの窓口で新幹線の切符を購入することにした。

カッコイイお兄さんに目を奪われて

「東京駅から名古屋駅までの新幹線の切符を1枚お願いします」
そう言って、窓口の駅員さんを見た瞬間、私の心に大きな稲妻が落ちた。
ジャニーズ風の、とびきりカッコイイお兄さんだったのだ。まあ、素敵・・・と見惚れてしまい、切符を財布にしまうのをうっかり忘れてしまった。
「お客様、切符をお持ちでしょうか?拝見させてください」
車内で車掌さんからそう聞かれて、初めて自分が切符をなくしたことに気付いた。一度ならまだしも、二度も同じようなアクシデントが続くと、身も心も疲れてくる。(ちゃんと名古屋に帰れるのかな・・・)そんな不安に襲われた。
ポケットの中を必死に探る。ジャンバーの左のポケットに、新幹線の切符が入っていた。てっきり改札で切符を通した後、どこかで落としていたと思っていたが、ポケットの中にあった。切符を車掌さんに見せ、無事名古屋駅まで向かうことができた。

「ああ、良かった。これで家に帰れる」
安堵した私は、自分の身に起きた出来事を、面白おかしくノートに書き始めた。書き始めると筆が止まらなくなり、作業に没頭してしまった。そして、名古屋を通り過ぎて博多まで行ってしまった。なんてことは、流石になかった。名古屋駅で降りて、そこからJRで自宅へと向かった。

不注意があるから、楽しめることも

不注意、うっかりミス。
時々、この症状があることが嫌になったり、情けない気持ちになったりすることもある。けれど、不注意があるからこそ、楽しめることもある。
私はよくうっかりものをなくしてしまうが「人々の記憶に一生残る、素晴らしいエッセイを書きたい!」という熱い気持ちだけは、一度もなくしたことがない。この気持ちだけ常に持っていれば充分だ。

残りの人生、あと何年あるか分からないが、命尽きるその日まで、この症状を受け入れて生きていこうと思う。世間的に見れば「短所」。医者から告げられた診断名は「ADHD(注意欠陥・多動性障害)」。不注意を改善する薬があるから飲んでみてはと、アドバイスを受けた。だが、私は短所だと思って薬を飲むより、楽しんで生きる道を選んだ。自分の短所にどう向き合っていくかは、自分次第。向き合い方次第で、今より人生を彩豊かなものにできる。読者の皆様も、ぜひこの生き方を真似してみてはいかが。