8月頭。5年ほどずっと伸ばしてかきあげていた前髪を切った。
理由は、辛いことが重なって、心底どうしようもなく、思いを断つ手段がなかなか見当たらなかった時に、ふと思い浮かんだのだ。
「そうだ、断髪しよう」と。
これまで髪を切るたび、「失恋したの?」と揶揄されてきて、それが鬱陶しかったけれど、その法則に則ってみたら、少しは心が軽くなるのではないか。
そんな、藁にもすがる思いだった。

推しの引退は、わたしに大きな衝撃を与えた

実のところ、失恋では全くない。以前エッセイに投稿した通り、彼氏もいなければ恋愛感情の意味で好きな人もできなことがない。
ではなぜ髪を切ろうと思ったのか。
その理由のひとつは、推しの引退後の空虚な気持ちからの脱却の意味を込めた。推すことと恋をすることは似ているから、ある意味失恋かもしれない。

カントリー・ガールズとJuice=Juiceを兼任していて、3月11日に惜しまれながらおとぎの国に帰っていき、そのアイドル人生に幕を閉じた梁川奈々美ちゃん。嗣永桃子ちゃんの次に見つけた、最愛の推し。彼女はたった17歳にして、職業としてのアイドルを引退したのだ。
この事実は、わたしに大きな衝撃を与えた。推すことができた期間は、たったの3年足らずだった。推し始めてから、ライブで彼女の姿をみて、新曲のMVに感動して、握手をして、写真集イベントも行って、より一層磨かれた語彙力溢れる笑いありのトークに笑みをこぼしたり、それがずっと当たり前だと思っていた。

グループの兼任を始めてから前髪を切っていて、おでこがみれなくなって寂しいけど、お姉さんになったんだな、とか。20歳のバースデーイベントは何をやるのかな、とか。船木結ちゃん(カントリー・ガールズ/アンジュルム)と梁川奈々美ちゃんの「やなふな(二人の愛称)」はハロプロの未来を担っていってくれるんだろうな、とか。
ずっとあると思い描いていたものは、一瞬で儚くなくなってしまうのだという現実を、まざまざとわたしに提示したのだ。

アイドルを好きでいる限り、この恐怖を何度も味わうのだろうか

彼女は引退発表後、日々綺麗になっていき、そしていつもと変わらない笑顔で次の人生へと旅立っていった。その姿を見て感動したと同時に、怖くなった。アイドルを好きでいる限り、この気持ちを何度も味わうのだろうか、と。
もちろん、彼女たちが自身のためにアイドルになり、自身のための人生を歩んでいくのは当たり前だ。「幸せになって」と切に願っている。頭ではわかってはいるが、どうしようもない焦燥感と喪失感が残った。ごめんなさい。

それから、ずっと、髪を切るまでの間は別の推しもいるけれど、その恐怖感と戦い続けていて、イベント等に足を踏み出すことができなかった。おまけに、その喪失への恐怖を煽る事件がまた起こってしまい、どん底にまで落ちた。ただ、脱却するために「変わらなきゃ」とも思った。
だから、彼女が兼任を機に前髪を切ったように、わたしも前髪を切った。
ずっとずっと、好きでいるために。

前髪を切って、大きな心境の変化はなかったけれど

髪型が変わって、さあ心境が変わったかといえば、実のところ全く関係がなかった。辛いという気持ちはそのまま変わらないし、世界も変わらない。
だけど、実に5年ぶりに作ってみた前髪は、幸いにして概ね好評だった。後で聞いたところ、わたしのぱっつんは周りにはかなりの衝撃を与えたようだった。
そして、前髪をコテで巻くようになって、前髪に合わせた髪型をするようになった。何よりも、視界がクリアになって、視野も広がったような気もした。

前髪を切って世界が変わることは無かったし、前向きになろう!という大きな心境の変化もこれといってなかった。
けれど、自分の中でなにかしらの小さな変化が生まれていった気がする。事実、わたしはアイドルを推すことを再び始めた。結局、最愛のカントリー・ガールズは、2019年12月26日をもって活動を停止したけれど、アイドルを好きでいることを辞めることなく日々を過ごしている。

それが自分にとって良い方向に転がるかはわからない。

けれど、髪を切ってよかった。
これだけは自信を持って言える。