私はBもない。
Aより若干あるくらい。
胸のサイズの話だ。
右と左の小さな塊は、私の大きなコンプレックスである。
小学校高学年で初経を迎えてから約7年になる。この第二の性徴期に私の胸は、申し訳程度にしか膨らまなかった。あー、男の子は低身長で胸のある女の子が好きなんだろうなー。と思いつつも小学生の頃の私は特段、自分の身体に不満は無かった。なぜなら私は女の子から好かれる体型だったから、である。
高身長・低体重な私は、思春期の女の子にしてみれば一度は目指したい「モデル体型」のようで、よく羨ましがられた。関心を向けられるのはもっぱら脚の長さとか腕の細さとかで、胸は好きとか嫌いとかの話では無く、自分を含む周り全員がそもそも私の胸というパーツに無関心だった。「痩せ型の女の子の胸は他の女の子よりも遅れて急激に成長する」という証拠のない話も、ぼんやりと信じていた。
胸の下ネタばかりの彼氏の言葉
中学生の時、彼氏が出来た。私の胸はまだ出来上がっていなかった。彼は優しくて面白い男の子だったけれど、息を吐くように下ネタを日常的にぶちかましてくる男の子だった(私も息を吸うように彼の下ネタを吸収してゲラゲラと毎日笑っていたので、バランスは良かった)。
彼の下ネタは圧倒的に胸ネタが多く、徐々に私は「胸胸胸胸、毎日言ってるから私の胸じゃもしかしたら足りないのかも」と悩むようになった。「私の身体で抜けてるのだろうか」と男子中学生の性欲処理の要らぬ心配までした。胸に関心がありまくる男の子と付き合ってから、私は自分の胸の小ささを気にするようになっていった。
ある日、思い切って「胸は大きい方が好き?」と聞いてみた。彼はしばらく悩んでから「まな板でも好きやで」と言った。君の胸がまな板であろうとも君のことは好きやで、という優しい彼なりの精一杯のフォローなのだろうが、無い胸が抉られるようだった。まな板"でも"って何。やっぱり大きい方が好きなんじゃん。ってか、まな板って心の中で呼んでたのね。確かにまな板だけどさ。何と言い返すのが正解か分からないまま、私はただその場をゲラゲラと笑い、こっそり帰り道に一人で泣いた。
変わらない胸。じゃあどうする?
それから日々、バストアップに挑戦し続けた。豆乳も飲んだし、バストマッサージもした。胸が大きい子達と比べて私は、元々の体重が軽いのだと気付いてからは、無理をしてご飯を沢山食べたりもした。そうして食べる事が嫌いになって逆リバウンドをして、貧相になっていく身体を見て、また無理をして食べて。彼と別れたあとも数年、地道に頑張り続けたが、どんなに頑張っても全く胸のサイズは変わらなかった。
人の身体には限界がある。私の身体はもう、成長しない。じゃあ、どうする。まな板"でも"好き、と言われ続けなくちゃならないのか。''でも''と妥協してくる男で、私は妥協し続けなくちゃならないのか。
大きなコンプレックスと言いつつ私は普段よく、身体のラインが出る服を着る。胸の小ささは目立つが、劣等感を抱きつつも気合いで着る。コンプレックスでも、隠して生きていたくない。妥協はしたくない。この身体"が"好きだと言ってくれる人に出逢えたら、きっと幸せだ。