「もしかして、失恋したの?」

「いいえ!留学に行く前に、心機一転したくて!」

「お別れ」は想像してたよりもあっさり現れた

荷物検査状で送り出した背中は、想像してたよりもあっさり消えていった。こうして、恋人としばしのお別れをした。

見送って空港を後にし電車に乗ってる間は、自分でもびっくりするぐらい冷静だった。

「1年も会えないってどんな感じなんだろう」
「でも、電話だってできるし、案外平気かもね」

なんて思ってたけど、恋人の使ってた歯ブラシはダメだった。涙腺が綺麗に崩壊した。泣き疲れたのか、気付いたら朝。
「この遠距離をなんとしても乗り越えてやる!」と意気込んで、腫れた目に温めたタオルを載せた。

それなのに、「お別れ」は想像してたよりもあっさり現れた。

「、、、好きな子ができた」

え?なんて言った?なんで直接、報告した?
え?これが、恋人なりの優しさのつもりなのか?
理解不能すぎる。私は全くこの人のことがわからない。

と、ほんの数秒間でそれはそれは色んなことを考えた。

でも、こういう時に私はプライドが高すぎて、「いやだ」が言えない人間だ。そして、「お別れ」することになった。

(元)恋人の歯ブラシで家中の排水溝を掃除した

ここでも、涙が枯れるくらい泣いた。毎晩、毎晩、母親に電話しては泣いた。「いい加減にしなさい!」と怒られるまで泣いた。
その電話でいくら気持ちが落ち着いても、天敵が洗面台にいた。

歯ブラシだ。

もはや、(元)恋人へのこの感情はなんだかわからなかった。怒りなのか、悲しみなのか、愛おしい気持ちなのか、執着心なのか。わからないけど、(元)恋人の歯ブラシは、あの時の私にはとにかく最悪だった。

だから、(元)恋人の歯ブラシで、家中の排水溝を掃除してやった。そして、真っ黒になった(元)恋人の歯ブラシを見た。
、、、全然私の恋人への気持ちは晴れなかった。

「ダメだ。もう、これ以上ここにいられない」

そう思って、留学という選択肢を選んだ。

自慢のロングヘアにハサミを入れた

留学を決意した理由。それは、あの部屋に居たくなかったのが5割、(元)恋人を見返したかったのが5割。私はこんなにできた人間だぞ!フッたこと後悔してるだろ?!おら!という感じで。で、いざ留学の出発日が近づいてみると、多額のお金をかけて行く留学が、全部(元)恋人への未練に帰着するのが無性に許せなくなった。

(元)恋人への未練を日本に置いて行きたい。

「、、、よし。髪を切るか!」

数年かけて伸ばしてきた自慢のロングヘアに、自分でハサミを入れることにした。この時のやり取りは、冒頭の通り。本当は失恋だった。さすが美容師さん。ご名答。でも、失恋のせいで髪を切るなんてテンプレすぎる。天邪鬼な私は「留学に行くためです!」と、気丈に美容師さんに言った。

数年ぶりに見た自分のショートヘアーは案外しっくりきた

自分で切ったところを整えてもらっている間、考えていた。

「この髪と一緒に、(元)恋人への未練もここに置いて行けるだろうか」
「そもそも、ショートヘアー似合わなかったらどうしよう」

ところが、数年ぶりに見た自分のショートヘアーは案外しっくりきた。その日は何度も鏡を見た。内カメを開いた。ファッションショーをした。久しぶりに心底楽しかった。もうずっとニコニコが止まらない感じ。そして、思う。

「あれ?私ってこんなに単純な人間だったのか。すごくスッキリしてる」

これを読んでる人には、「ただ髪を切っただけじゃないか」と思われるのかもしれない。それでも、あの時の美容師さんへの強がりと落ちた長い髪の毛のおかげで、私の未練は昇華されたらしかった。だからきっと次の失恋の時も同じことをするんだと思う。もちろんテンプレだと思われるのが嫌だから、何かの言い訳を付録にしてね。