私は、今まで生きてきた25年間で、一度だけ髪型を変えたことがあります。黒髪、おかっぱが定番で、いつも「ちびまるこちゃん」だった私が、茶髪にし、ゆるくパーマをかけたのが、大学入学直前のことでした。

高校生のころは特に見た目や美容にも興味がなく、学校の勉強、部活、行事に精を出していました。受験勉強を一生懸命頑張ったこともあり、無事に第一志望の大学に合格することができました。合格の嬉しさから、高校3年生の春休みは、これから始まる大学生活に胸を躍らせていました。「“大学生”になりたい!」と強く感じ、そこで思いついたのが、「イメチェンしてみよう!」ということ。そしてそのための手っ取り早い手段が、髪型を変えることだと思ったのです。

髪型を変えた効果は抜群

早速いつも行っていた美容院の予約を入れました。いつもは美容院に行くのに緊張していましたが、その日だけはワクワクしていたのを覚えています。美容師さんに「茶髪にして、パーマもかけたいんです!」と伝えました。当時は知識もなかったため、美容師さんから「染めるのとパーマかけるの、両方一度にやると髪傷むけど大丈夫?」と聞かれても、「はい、今日どっちもやりたいんです!」と意気込んで答えたのを覚えています。カラーとパーマが終わるまでの長い待ち時間さえ、どんなふうに自分は変わるのだろうと考えていると、一瞬で過ぎていきました。

「終わったよ」と美容師さんから告げられ、鏡を見てみると、そこにいたのは自分で見ても「垢ぬけた」私でした。今までの“カットだけ”のときとの料金の差にびっくりしながらも、こんなにも変われたことが嬉しくて仕方ありませんでした。

髪型を変えた効果は抜群でした。大学生活が始まってみると、これまで言われることの少なかった「可愛い」を言われるようになったり、何人かから告白されたり、人生で初めて“ナンパ”されたりしました。これまで苦手だった写真にも、積極的に映るようになりました。
髪型を変えてから、楽しいことばかりに思えました。どこか「自分ではない」と思いながらも、うわべだけの楽しさに流されていました。

本当に興味があるのは美容ではなく勉強でした

しかし、結局私の茶髪パーマ人生は一年で終わったのです。それは、大学一年生の春休みに行った留学先で知り合った現在の夫から言われた一言がきっかけでした。彼と知り合ったころは茶髪パーマのままでしたが、私の地毛が黒だと知った彼から「どうして染めているの?」と言われ、ハッとさせられました。

思えば「“大学生”になりたい」という理由だけで染め、パーマをし、何の疑問も持たずに染め直し、パーマのかけ直しをしてきた私。「どうして染めているの?」という彼の質問に答えられませんでしたが、あとからじっくり考えてみると、惰性で続けていたのだと気づきました。

留学先から帰って、私は髪を黒に戻し、パーマは自然にゆるくなるのを待ちました。思えば染め直しとパーマのかけ直しにお金もたくさん使っていました。しかし、自分が本当に興味があるのは美容ではなく勉強でした。それに気が付いてからは、本を買ったりセミナーに参加したり、勉強するためにより多くお金を使うように。見た目は大学入学前の私に戻ってしまいましたが、好きなことに没頭できるようになったため、内面は充実していました。

茶髪パーマの一年は華やかだったけれど、自分らしくなかった

「ちびまるこちゃん」から脱した一年は、自分のこれまでの25年間の人生の中で一番華やかだったと思います。しかし、同時に自分らしくない、と心のどこかで感じていました。そのため、彼の言葉をきっかけに考え直すことができ、もともとの自分に戻ったときは、安心したのを覚えています。今、鏡を見ると、そこに映るのは以前と変わらない「ちびまるこちゃん」の私です。