ばっさりと、ずっと伸ばしていた髪をショートに切った。鏡に映った自分を見て、これは本当に私なんだろうかと思った。

初めてできた彼氏

初めて彼氏ができた。それは大学4年生のことで、同年代の中では、ずっと遅かった。

実は私は他の人の目をものすごく気にするタイプ。「しっかり自分を持ってるよね」「いつでも自分の意思で判断できて羨ましい」そんなことを周りからは言われ続けてきた。でも本当の私はプライドが高くて、とにかく他の人に下に見られるのが嫌なのだった。
だから、彼氏ができなかった時はなんだかんだ焦っていた。告白してくれた人もいたけど、「この人と付き合った時の自分を、周りは羨ましいと思うか」ということばかり考えて、結局付き合わなかったし、自分から告白するなんてもっての他だった。

そんなこんなで大学4年生まできた時、さすがに彼氏を作らないと、というかこの歳でまだ処女ってやばくない?と思って彼氏を作った。我ながらひどいと思うのだけれど、周りの男の子を書き出して、その中から3人くらい付き合ってもいいかなと思う人をあげて、一斉にメッセージを送った。「久しぶり。最近どうしてるのかなって思って。就活も落ち着いたし、ご飯でもどう?」そうして、無事その中の一人と付き合った。

実際に付き合ってみて

最初は、我ながら本当に可愛げがなかった。相手の好きが自分の好きより大きくあってほしい。友達には、私は彼氏に愛されてる、羨ましいって思ってほしい。そんなことばかり考えていた。実際に付き合ってみても、結局自分しか見えていなかった。

そんな私に転機が訪れたのは、彼氏と雑誌を見ていた時。最初は「どんな服が好き?」「今度のデートはどの格好していこうか」そんな微笑ましい会話だった。そのうち、私が「顔で言うと、どの子がタイプなの?」、そう聞くと彼は、「ん、この子かな」そう言って指差したのは綺麗系の子。私はふんわりとした可愛い系の子じゃないことを安堵しつつ(自分と真逆のタイプだし、THE女の子みたいな子が好きなんて言われた日には、きっとじゃあそういう子と付き合えば?なんてかわいくないことを言うのが目に見えていた)、一方で「え、ショート好きなの?」と聞いた。その子はショートカットだったのだ。

「俺ショート好きなんだよね」そういう彼は、「でも君は髪が長い方が似合うよ」とフォローを入れる。「ふーん、ショートは小顔の子しかできないから羨ましいな」となんでもない風を装っていう。誰がお前の好みなんかに合わせてやるか。その時はそう思っていた。でもその後、彼氏含めた複数人で飲みに行く時、ショートカットの女の子がいると、私の中はモヤモヤでいっぱいになったし、彼氏とその子が喋ってるのを見ただけでものすごく嫌な気持ちになった。もちろんお互いそんな気がないのはわかっているけれど。そうしてそんな感情を抱く自分をどんどん嫌いになっていった。

髪を切ってやる

彼氏への嫉妬を通して、最終的に人の目を気にしすぎる自分に嫌気がさした。何をするにも、「他の人は羨んでくれるかな」それが意思決定基準になっていた承認欲求の塊だった、そんなことに気づいてしまった。ショートカットの子が好きという彼氏が嫌い。ショートカットの子が好きという彼氏と話しているショートカットの女子が嫌い。彼氏がショートカットの子が好きと言うだけでショートカットの子全てを敵認定してしまう自分が嫌い。ぐるぐる悩んで、結局どうしたらいいかわからなくなった私は、衝動的に美容院を予約した。とりあえず、ショートにしてみよう。あとはそれから考えよう。

そうして幼稚園以来のショートカットになった私は、なんだか全てが吹っ切れてしまった。その日の夜にうちに来た彼氏はものすごくびっくりしていた。「ごめん、ショートが好きとか言ったから…」そういう彼氏に私は、「違うの。実はね、私…」

そういって全てを話した。実はものすごく人の目を気にしてしまうこと。付き合ったのも、正直あなたが好きというより、そろそろ彼氏作らなきゃまずいなって思ってたこと。ショートカットの子をみるたびに劣等感を抱いてしまったこと。そんな自分に嫌気がさしたこと。

彼はずっと黙って聞いてくれて、「話してくれてありがとう。本音を聞けてよかったよ。あとショート似合ってる」そう言ってくれた。

結局私はロングの方が似合うから、今は髪を伸ばしている。でも、あの時ショートにしたことを後悔はしていない。