妹が私の髪を結おうとしたときに驚いていたことを、今でもよく覚えている。目を丸くした妹を鏡越しに見て、私も驚いた。そんなに私の髪の毛は厚くて量が多いのか、と。確かに私の髪の毛は真っ黒で少しうねっていて重たい髪の毛だった。髪の毛の量が少なめな妹と比べると、2倍か3倍、私の髪の毛は多いように感じた。そのことは、高校生の私には、ちょっぴり、けどパンチの効いた衝撃だった。

あの頃の私は、学校に通っているだけなのになんだかいっぱいいっぱいだった。特に朝が面倒くさくて、何もしたくなくて、髪の毛は適当に二つ結いにしていただけだった。簡単だし、先生には指摘されないので、なんとなくそれで心に折り合いをつけていたように思う。そして、あの衝撃があってからも私の髪の毛は変わらなかった。

でも密かに、広告で見かける黒髪ロングヘアの制服を着た女の子が好きで、ぼんやりと憧れていた。時々、髪の毛を触っては、鏡を見ては、あの衝撃が心に波紋をつくった。けど、髪の毛の優先順位が72位くらいの私は、波紋をただ見つめて通り過ぎるのを待っただけだった。

2プッシュのヘアオイルと、私の変化

高校を卒業して数年、インスタで見る友達は制服からカラフルになった。ほとんどの子が黒髪だったのに、今や黒髪の方が少数派だ。去年の地元の夏祭りで会った同級生も、髪の毛は茶色でメイクはバッチリで、あの頃とは違う印象を受けた。でも、彼女は私に「変わらないね」って言った。私はまだあの重たい髪の毛のままだった。私はやっぱり面倒くさがり屋のまんまだったし、美容院へは定期的に行くこともなかった。

そんな私にある日母がヘアオイルをくれた。妹のヘアオイル購入のついでに買ってきてくれたそうで、乾かす前の髪の毛にヘアオイルを2プッシュつけるだけらしい。こんな私でも腰が持ち上がって、トライしてみた。つけて、乾かして、ドライヤーを止めて、鏡の中の自分を見た。ビックリ。少し、いや私からすると大きく髪の毛が変わっていた。「髪の毛が落ち着いてる！ちょっとストレートに見えるんじゃない？」なんて心で叫びながら、髪の毛を触りまくった。

それから、ヘアオイルは私の日常の一部になった。私は鏡の中の自分が少し好きになった。出かける前に鏡を見る時間が長くなったような気がする。試着室で服を合わせたとき、いいかもと思う感度が上がったような気がする。未だに久しぶりに会った人から変わらないねって言われるけど、私は変わった。髪型が変わって、心が変わった。あんなに何もしなかったのに、人はたまに少しのきっかけで動き出すことができる。

髪型を変えるのは、自分を愛するため

もう一つ、私はヘアオイルと出会って変わったことがある。それは、あの子たちが髪型を変えた訳をもっとちゃんとわかった気がすることだ。きっと「自分が好きな自分になるため」にあの子は髪型を変えたんだ。その訳は、カラコンやメイクにも結びついていて、その一つ一つが自分を愛そうとした結果なんだと思う。そして、そうでなければならないと思う。ルールやマナーのためじゃなくて、誰かのためじゃなくて、自分を愛するために。もちろん、大切な誰かのために自分がそうしたいと望むのならいいと思うけど、ね。

今、私の髪の毛は黒いまま。量もそんなに変わらないし、雨の日はぶわっと広がるときもある。でも、ヘアオイルはできるだけかかさない。これは私の無理なくできる髪の毛への、私への愛し方。今はそれがいい。いつか私も髪色を変えたり、パーマをかけたりする日がくるかもしれないと、ひっそり新たな波紋を抱えながら。