明治大准教授「画像加工アプリの普及で“女性の体の性化・モノ化”進む?」
SNSで性被害を訴えた#MeTooが世界的なムーブメントとなるなど、SNSの新しい可能性が広がっています。一方、SNSでの交流、出会いの危うさや、プライバシー侵害・性的被害といった面も出てきています。かがみよかがみでは「SNSがあるから」のテーマでエッセイを募集します。エッセイ募集にあわせ、明治大学で「ジェンダーとメディア」などの研究をする田中洋美准教授にお話を聞いてきました。
SNSで性被害を訴えた#MeTooが世界的なムーブメントとなるなど、SNSの新しい可能性が広がっています。一方、SNSでの交流、出会いの危うさや、プライバシー侵害・性的被害といった面も出てきています。かがみよかがみでは「SNSがあるから」のテーマでエッセイを募集します。エッセイ募集にあわせ、明治大学で「ジェンダーとメディア」などの研究をする田中洋美准教授にお話を聞いてきました。
――ソーシャルメディアとジェンダーをテーマに研究をされています。いま関心があることはどんなことでしょうか。
SNSの登場で、人と人の出会いややり取りがどう変わっているのか。自分でコンテンツを作り発信するとはどういうことで、社会的にどんな意味を持つのか、などを知りたいです。例えば、若い世代のSNS利用者には女性が多いですが、「自撮り」やそのための画像加工アプリの広がりで「女性の身体はこうあるべき」という身体規範はどうなっているのか、女性自身による自己の身体の性化、モノ化が進んでいるのではないか。こういった問題意識から研究を進めています。
SNSには、#MeTooやフラワーデモなど、これまで社会的に排除されてきた声が連帯して、社会的な影響力を持つ、というようなよい側面もあります。一方で、SNSが安全にコミュニケーションが取れる空間かというと、必ずしもそうではありません。会ったこともないような人から突然、性的なメッセージや画像を送られるなどの嫌がらせや、ネット上でストーキングを受けたりするケース、閉じられたLINEのグループがいじめの温床になるケースも起きているようです。
ただ、SNSを使うのは危ない、などということにはもはやあまり意味がありません。すでに社会で広く使われています。個人の日常でSNSがどう使われているのか、この新たなコミュニケーションにおいて何が起きているのか、きちんと捉える必要があると考えています。
――なぜ「SNSとジェンダー」というテーマに関心を持たれたのでしょうか。
メディアとジェンダーの研究はマスメディア中心でした。私も主に雑誌や広告などで、どのようなジェンダー・イメージが作られているのか、女性や男性の身体がどう描写されているのか、といったことを調べていましたが、モバイル機器が登場したころから、新しいメディアを研究する必要性を感じていました。
それまでのコミュニケーションと比べるといろいろな変化が急速に起きているようにみえます。
例えば、東京だと、電車で隣に座った人と話し出すことはほとんどないですよね。でもなぜか、SNS上だと、全然知らない人と親しげにやりとりをすることもある。一見、矛盾するようなことが、同じ社会の中で起きている。
また以前なら、海外とのやりとりで、手紙の場合は2週間待つことが普通でした。いまはメールだけでなく、SNSやメッセンジャーアプリなどで、瞬時に、しかも複数の人ともやり取りができます。2週間どころかすぐに返信がないだけで、どうしたのかなと思ってしまうかもしれません。
こうした新しいメディア環境の中に自分もいるわけで、そのような社会の現状についてもっと知りたい、理解したいという思いがあります。
ソーシャルメディアをめぐっては、この数年でもいろいろな変化があります。
若者と一口に言っても、10代と20代、中高生と大学生でも、その利用には違いがあるようです。一般的に若い世代はフェイスブックやメールはそれほど使っていないようですが、中高生にはTikTokやyoutubeなどの動画アプリやサイト、大学生にはインスタグラムといった写真・動画の共有アプリが人気のようです。
目的や関係に応じて、SNSの細分化が進んでいる印象もあります。例えば、LINEなどのメッセージアプリは日本では非常に人気がありますが、それとは別に恋人同士が2人だけでやりとりすることに特化したカップル専用SNSもあります。記念日の共有、デートの日程調整など、カップル向けの機能が充実しています。どういうアプリがあるのか、そのこと自体が興味深いです。
――かがみよかがみでは、18歳~29歳の女性から、エッセイの投稿を受け付けています。
個人一人一人の気持ちによりそうよい取り組みだと思います。書きたい人が書くこと、それ自体とても大切なことです。自分の経験を自分で言語化することで「こういうことだったんだ」と整理されることにも繫がります。いま公開されているSNSに関するエッセイを読んでも、発見や発想の種がいくつもあります。
研究は、狭い分野を追及しているように見えるかもしれませんが、自分が属する社会を特徴付けているもの、ひいては広くその社会について、今まで全く考えてもみなかったような新たな視点を得ることもできます。そのために広くアンテナを張ることも必要です。
男女間の賃金格差、議会や管理職など政治や企業の意思決定の場に女性が少ないこと、性暴力の被害者に圧倒的に女性が多いこと。これらはバラバラの問題に見えても、根っこには同じ「ジェンダー」の問題があります。社会的、文化的につくられた男性や女性(あるいはそれ以外)といった性別や、それについての認識により、性別や性に関する不均衡な関係性が構造化されてきました。そうした構造は、メディアやそれを使ったコミュニケーションのあり方にも影響を与えてきました。
SNSが私たちの生活を幸せにしてくれればいいのだけれど、そうでない面もある。研究が目指すものは、偏見やステレオタイプから解き放たれ、暴力ではなく思いやりを基盤とするコミュニケーションが醸成されることだと考えています。そのためには一人でも多くの人の気づきと行動が重要です。
明治大学情報コミュニケーション学部教員。専門は社会学、ジェンダースタディーズ。現在はソーシャルメディア、AIについて研究。主な著書・訳書は「ボディ・スタディーズ―性、人種、階級、エイジング、健康/病の身体学への招待」(晃洋書房)など。日本社会学会や国際ジェンダー学会に所属。研究室:https://hiromitanaka.net
かがみよかがみでは、明治大学で「ジェンダーとメディア」などの研究をする田中洋美准教授とコラボし、「SNSがあるから」のテーマでエッセイを募集します。
かがみよかがみは「私は変わらない、社会を変える」をコンセプトにしたエッセイ投稿メディアです。
「私」が持つ違和感を持ち寄り、社会を変えるムーブメントをつくっていくことが目標です。
恋愛やキャリアなど個人的な経験と、Metooやジェンダーなどの社会的関心が混ざり合ったエッセイやコラム、インタビューを配信しています。